√1*8
あからさまに射精を訴え始めた犬塚のペニスの先端に親指を軽く押し付けたまま。
その訴えを無視するように、俺は一旦手の動きを止めた。
同じ男として可哀想だと思うが。
話を進ませて貰おう。
「……これが俗に言う、嫉妬というのならば、」
「……愛、咲」
射精を塞き止められている所為か。理由は分からないが。
下から覗き込んだ犬塚のその表情は何とも苦しそうで。
……それでいて、何とも可愛らしくも思えた。
「お前も気を付けろよ」
クールな奴がそんな表情をしていると、年相応に見える。
いつもと違う犬塚の目を見て、クスッと一度だけ笑って…。
「俺は相当嫉妬深いらしいぞ?」
俺は唇には当たらないように気を付けながら、犬塚の口端に触れるだけのキスをお見舞いしてやった…。
「(……そうか。これが恋、なのか)」
恋、って何か変なの。
俺のいきなりの行動に驚いているのか、目を白黒させている犬塚を見て、俺は再度笑った。
胸の中がモヤモヤしたり、苦しくなったり、締め付けられたり。
犬塚の行動にずっと、あれこれやきもきしていたのはこれが理由か。
「(日野に気付かされるとは…)」
…何たる、不覚。
だが、すんなり自分の気持ちを認めてしまえば、清々しくも思える。
「浮気は絶対に許さないし。女の子とも日野とも極力二人きりになるなよ」
「、愛咲」
「それと……、」
「…っ、愛咲…!」
「ん、?!…っ、んむ、」
俺と付き合うにあたっての守るべきルールを述べている最中に、いきなりの接吻。あまりにがっついてくるものだから、少し歯が当たって痛かった。
犬塚がこんな失敗するのは初めてのことだ。いつもならば「痛ぇよ!下手くそ!」とでも罵っていただろうが、今はそんな気は起きない。
むしろ無我夢中で俺を求めている証拠と思えて、嬉しく感じる。
「っ、ん、…ン、っ、は」
俺の手の中のペニスも。その鉄仮面と呼ばれている表情も。
…今では馬鹿正直だな。
「……っ、愛、咲」
「ん、…ッ、は…、聞こえてるっつーの。何だよ、…バカ」
「好きだ…、っ…愛してる」
「…ふはっ、分かってるって」
「………愛咲は?」
「一々聞くんじゃねぇ」
好きとか。愛しているとか。
俺は犬塚と違って、不器用で嘘吐きで素直じゃないから、上手く言葉にして伝えることが出来ない。
……だけど。
これだけは、ハッキリと言える。
「お前が俺を愛してくれるなら、それを倍にして返してやるよ」
何とも可愛くない返し方。
しかしそんな俺の言葉に嬉しそうに微笑む犬塚を見て、こいつも相当馬鹿だよな、と俺は改めて思った。
つまり、馬鹿同士お似合いなのかもしれない。
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