√1*7
「は、はぁ?!何でだよ?!」
「滑りが良くなるから」
「……っ、」
そういえば以前男女物の純愛AVを見た時、そういうシーンを見た気がする。
華奢で白くて細い女の子の指が、男の汚くてグロいペニスを触っているというだけで、興奮物なのに。横髪を掻き上げながら、そこにツゥー…って唾液を垂らす姿は正直TV越しで見ているだけでも堪らなかった。
滑りも良くなって、視覚的にもエロいその行動は、同じ男ならば一度はしてもらいたい行為だけれど…!
それはあくまで“してもらいたい”だけだ!間違っても“したい”とは思わない。
「ふざけんな。俺がそんなことするかよ」
「……愛咲」
「滑りを良くしたいなら、自分の唾でも垂らしてろ」
扱いてやるだけでも、かなり譲歩して引き受けてやったんだ。
これ以上ハードルを上げられたら堪ったもんじゃない。
「…仕方がない」
俯く犬塚の様子を横目で見て、俺は素直に引き下がったものだと思っていた。
「っ、ん、ンむ…ッ?!」
だが…。
諦めていなかった犬塚は、むりやりにでも俺の唾液を使おうと、俺の口の中にその無骨な指を二本も突っ込んできやがった。しかも腹が立つことに、喉元にだ。
「ん、え…っ、ッ、んぐ、」
苦しくてえずけば、背中を擦られる。
「(そんなものは優しさとは言えない…っ。そんな気遣いはいらないから、早く指をどかしてくれ)」
しかし犬塚は俺の意思など構わず、唾液を掻き出そうと指を動かしてくる。
「っ、ン、ぐ、う、ぇ、ッ」
口は閉じることは出来ず、口端から零れる少量の唾液。
それは犬塚の思惑通りに、見事にペニスへと落ちる。
……それは、何とも複雑な光景だった。
タラー…ッと垂れ落ちる銀色の雫。それがペニスへと掛かり、亀頭部分がテラテラと光って見える。
これが傍観者の立場ならば、生唾物のエロい光景なはずなのに…。
「…げほ、っ…おま、ふざけんなよ!」
やっと口の中から出て行った指に、ホッと安堵の息を吐く暇など今の俺にはなく。
咳き込みながらも、ギロリと犬塚を睨み付けてやった。
しかし、俺の睨みなど恐くもないのか、それとも今の状況に満足をしているのか、犬塚は僅かに口角を上げて、熱い目で俺を見つめてくる。
「…愛咲、」
「な、…んだよ?」
「扱いてくれ」
「……っ、」
…その時の犬塚の雄の色気はとんでもなく半端なかった。
目は獣のようにギラギラしており、額には少量の汗を掻いていて、切羽詰っているのか、熱い吐息混じりに言われたら、断ざるを得なくなってしまった。
俺は先程よりも滑りが良くなったソレを、再び上下に擦ってやる。
「……はっ、」
「っ、お前…本当に、馬鹿だ」
「………」
「こんなこと、絶対俺なんかにして貰うより、…婚約者にしてもらった方が、いいだろ」
「そんなことない」
「…、…俺さ、」
「…何だ?」
「好きとか恋とか愛とか…よく分からねぇんだけど…」
正直に言えば、俺は犬塚の事は嫌いではない。
たまにセクハラがうざいと感じることはあるけれども。
むしろ好きな部類には入っている。俺のこの性格の悪い本性を知っていても、引かないし。素で居られるし。…何より、俺に従順だし。
…しかし、だけどそれはもちろん友達としてだ。
「人を好きになったのも幼稚園の時が最初で最後だったし、…今は男しか見る機会ないから、恋愛とかしないしさ」
「………」
「好きとか…本当に分からないけど、」
……だけど。
「…さっき、お前が日野にベタベタされてるの見て、嫌、だった」
「…………」
…って、おい。
俺は今恥かしいながらも正直な気持ちを告白しているというのに、何故今お前のペニスはビクビク痙攣してるんだ?空気を読めよ、馬鹿野郎。今、射精したら許さんからな。
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