√1*3
「こんな所で会うなんて奇遇だな!」
まん丸の大きな瞳。目に入ると痛そうなくらい長い睫。鼻は小さく、唇はぷっくりと柔らかそう。そして、透き通るような白い肌に華奢な身体。
一見すると女子に間違えてしまいそう(むしろ女の子が裸足で逃げ出すレベル)。
だが、男だ。
守ってあげたくなるような外見からは真逆に、その性格は明るい。
敢えて悪く言うならば、五月蝿くがさつ。
俺が見たどの文献にもピッタリと当て嵌まる容姿と中身を持ち合わせたこいつは、良くも悪くも学園の人気者。名前は、日野 陽太(ひの ようた)。
「あー!充も居るじゃん。久し振りー!」
「…うん、ひさしぶりー」
…副会長達を誑し込み、学園を掻き回し続けている奴だ。
とは言っても、こいつも悪意があって引っ掻き回している訳ではないと思う。…多分。
というか、犬塚は日野に対してあからさまに嫌悪感出し過ぎ。後ろから舌打ちが聞こえてきたぞ、おい。
「駿は何処に行くつもりなんだ?」
「んーっと、職員室…かな?」
犬塚だとぶっきら棒に答えるどころか、日野の言葉を無視しそうなので、気を遣って俺が答える。無駄なトラブルは避けておきたい。それに早く此処を立ち去って目的を済ませたいからな。
だが、日野はそれが気に食わなかったようだ。
「…俺は駿に訊いたんだけど?」
「…え?あ、うん?」
「充は勝手に口出すなよなー」
「えっと、ごめんね…?」
「ま、謝ってくれたから許すけどな!」
俺って優しいだろ?と豪快に笑う日野に俺は苦笑いを浮かべる。
…何だったんだ今のは?
たった一瞬だったけれど。日野はまるで親の敵を見るかの如く冷たい目で俺を見てきた。いつもとは全く違う日野の態度に驚きを通り越して、恐怖を感じてしまい、思わず一歩後ろに下がる。
…そんなに気に障る事だっただろうか?
もしかしたら俺の無駄なお節介が癪に触ったのかもしれない。そうだとしたら少しだけ申し訳なく思う。
邪魔にならないように傍観して時が解決してくれるのを待つとするか。そして隙を見て一人で職員室に行こう。
「そうか。駿は職員室に行くのか!」
「………」
「俺も今から職員室に行くんだぜ!」
「………」
「奇遇だな。一緒に行こうぜ!」
「………」
だが運が悪い事に日野の目的地は俺と同じようだ。
しかし、こうも見事に無視されているというのによくへこたれもしなければ、腹が立たないな。俺だったら即キレてる。
「ほら、早く行こう。な?」
すると何の反応を見せない犬塚の態度を逆手に取るように、日野はスルリと犬塚の太い腕にその細い腕を絡めた。
「(…な、っ?!)」
まるで恋人同士のようなその自然な振る舞いに度肝を抜かれる。
…何だよ、こいつ。
犬塚は日野が俺の事を好きだとか言っていたが、それは全くの見当外れじゃないか。
そいつのターゲットは間違いなくお前だぞ…。
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