√1*1
√犬塚×充。
「おいこら、犬塚」
「………」
「犬塚…!」
…リコール。
その話を会長がしたのはつい三日前。会長はその件を一人で処理したいらしく、あまり生徒会室へと来なくなった。もちろん俺も犬塚も手伝うと申し出たのだが、会長からの返答は決まってこうだ。「俺が責任取って全て方を付ける」。
多分会長は会長でこの事態に陥った責任をヒシヒシと感じているのだろう。でもだからって会長が悪い訳でもないのだから、何も一人で背負い込まなくてもいいのに。そう思うものの、だが当の本人が頑なに意思を曲げないのだから俺からこれ以上は何も言えない。
リコールします、はいそうですか。で、すんなり話が済めば何も苦労はないが、実際はそう上手く行かない。下準備も沢山あれば、上の者に納得の行く理由も提示して、副会長達に書類を書かさなければいけないのだから。
「おい、聞けよ!」
「何だ?」
「何だじゃねぇだろうが!触るな!近寄るな!仕事しろ!」
そして会長が居ない事をフル活用するかの如く、当たり前のように肩が触れ合いそうな程俺の近くに座る犬塚。此処最近はかなりスキンシップ過多。
「仕事はしてるだろ」
「…だったらこの手は何だ?この手はっ?」
隙あらば俺の髪や頬、度が過ぎれば太腿すらも撫で回す犬塚の骨ばった大きい手を叩き落とせば、隣からチッと聞こえてきた。おい、お前が百パーセント悪いくせに舌打ちすんな。
「片手でも仕事は出来る」
「ふ、ふざけんなっ」
どんな開き直り方だっつーの。
こいつの事をクールで大人っぽくて格好良いとかいう奴らは確実に騙されているぞ。中身はただの年中発情期な駄犬だからな。いや、犬の方が余程お利口だ。それに何て言ったって犬は可愛い。可愛いは正義。
「ふー」
まともに相手にしたら駄目だ。時間の無駄。労力の無駄。
そんな暇があれば少しでも多くの仕事を終わらせないとな。
数枚の書類を持って席を立ち扉に手を掛ける。
「何処に行く?」
そうすれば案の定、犬塚に声を掛けられた。
「別に…」
「何処だ?」
「…何処だっていいだろ」
わざと冷たく言い放ってみたものの、犬塚には何の効果も無かったようで「俺も行く」と席を立ちこちらに近付いて来た。
「はぁ?いや。来んなよ」
「俺も行く」
「いや、だから…、」
ああー、くそっ。
面倒臭い。
「ふん、好きにしろ」
「ああ。そうする」
ただ職員室に書類を届けに行くだけだというのに、何故わざわざ犬塚と一緒に行かなくてはいけないんだ。だが犬塚のこの様子から察するに、それを伝えたからと言って、易易と引き下がってはくれそうにはない。もう面倒臭くなった俺は、犬塚の好きにさせるようにした。
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