チャラ男会計の受難 | ナノ


39

チャラ男会計総受け状態。


「つまり、二人は仕事をちゃんとしていたと…」

「ああ」

「当たり前だ」

上から犬塚、そして会長。なっちゃんの言っていた事は本当だったようだ。二人が嘘を言っているようには思えない。それにそんな事を嘘吐く奴等でもない。

ということは。
俺は四人分の仕事をしていただけで、やってやった感を出していたという事か。なんという情けない話…。いや、二人が俺や生徒会を裏切らずに仕事をずっとしてくれていたという事実は嬉しいので、これはもう良しとしよう。こんな重大な事実を知れて良かった。なっちゃんにはお礼を、…いつかしよう。

「愛咲」

「…んー、なぁに?」

「苦労を、掛けたな」

そして会長の大きな無骨な手が、俺の頭にポンっと置かれた。

「…っ、ぅ」

天下を取ったような横柄な態度を取り続ける俺様な会長から、まさか労いの言葉など掛けて貰えるとは思っていなかったので、かなり驚いたのと同時に、凄く嬉しく思えた。
胸の辺りが熱くなって、ジーンっと痛くなる。

「べ、別に…苦労とか、迷惑とか思ってないから…、」

プイッとそっぽを向いて自分でも分かる程に生意気な口を叩く俺。我ながら可愛気など微塵もない。
だが会長は気にした風もなく、俺の髪の毛を掻き混ぜ続けている。なっちゃんといい、会長といい、頭を撫でるのが好きだな。…そんなに俺の頭は撫でやすい位置にあるというのか。何か少しむかつくが、ここでまた喧嘩を売ると収拾が付かなくなりそうなので止めておこう。

「犬塚も、気にしなくていいからね」

「…だが、」

「むしろあの転入生を俺から遠ざけてくれて、…その、ありがとう」

あんな煩い奴と同じ空間に長居すると考えるだけで疲れてくる。転入生があまり絡んでくる事がなかったのは犬塚の気遣いのお陰だったのか。それは本当に有難い。心から感謝をする。

「愛咲…、」

「わ、っ…?!」

しかし素直に礼を述べただけだというのに、この駄犬は何をしているんだ。
馬鹿なのか、こいつ。あ、そうか。馬鹿だった。
俺の頭を撫でている会長の手を乱暴に叩き落とすと、俺の胸元に顔を埋めるように抱きついてきた犬塚。さながら本物の犬ようだ。

「痛ぇな。てめぇ、何しやがる」

「汚い手で俺の愛咲に触るな」

「ふざけるな。そいつは俺様の物だ」

「…いやいや、二人共おかしいよー」

俺は犬塚の物でも、会長の物でもない。
というか、俺は物ではないのだからその言い合いはおかしいだろう。
此処はおちゃらけて「俺のために争わないでー」とでも言った方がいいのだろうか。だがいくらチャラ男キャラを貫いているとはいえ、そんな阿呆な事まで言いたくはないので止めておこう。さすがにプライドというものはあるのだから。

ムキになって、まるで子供のようにギャーギャーと騒ぐ会長と犬塚。
会長はまだしも、犬塚がこんな風に声を荒げて歯向かうなんて珍しいものだ。だが会話の内容だけを聞けば、何とも間抜けに思える。俺はそんな二人を傍目で眺めながら、苦笑いを浮かべた。

「…ばーか」

ポツリと呟いた俺の小さな声は、二人の喧騒によって見事に掻き消された。
こんな馬鹿な喧嘩が出来るのは、平和な証拠なのだから。俺は未だに争い続ける二人を放っておいて、残された仕事に取り掛かった。


会長の口から、副会長と双子の庶務のリコールの話が浮上したのは、それから一時間後の事だった。




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