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チャラ男会計総受け状態。
「おれ、知らなかったんだけどぉ…」
「俺も知らなかった」
「あ゛?」
俺と同様に犬塚も知らないと声を上げれば、これでもかという程に会長の目が鋭くなった。ああ、これは怒鳴られるなと思った早々に会長はふざけるなと声を荒げた。そんな事を言われても知らないものは知らない。こちらに非はないはずだ。…多分。
「…あの糞野郎が」
「へ?」
だがどうやら会長が怒りを抱いているのは何も知らない俺達にではなく、他の誰かへのようだ。握り拳を作って荒々しくチッと舌打ちをした会長は、机にその拳を振り落とす。
そこは、…副会長の席。
そして会長は何を思ったのか、急に副会長の机の引き出しを漁り始めた。いくらずっと来ていないといえども、そこはプライバシーが働いていると思うのだが…。だけど成り行きが気になるので制する事はしない。
「どうしたの?」
「…チッ。ほらよ」
そして会長は封筒の束のから目当ての物を見つけたのか、その中の一つを俺に差し出してきた。俺は差し出されたそれを凝視しながらゆっくりと受け取る。封も開けられていないこの封筒に一体何があるというのか…。
その謎は宛名を見ただけで何となく予想が付いた。
会長から副会長へと出された手紙。会長から制止の声が掛からなかったのでそのまま封を開け、中身を読んでみる。そこにはこう記されていた。「急な用で実家の仕事を手伝わなくいけなったから暫く学校には来れない」、「こっちで生徒会の仕事を済ませて秘書に持って行かせる」、「それを皆に伝えとけ」と。簡単に要約するとこんな感じだった。
どうやら副会長がこの手紙をきちんと見もせず机に仕舞い込んでいたのが原因で、俺や犬塚には伝わらずに居たようだ。俺がこの話題を出さなかったらずっとこのまま真相も知られずにいたと思うと少しゾッとした。だって俺は一生会長の事を一方的に悪く思っていたと思うから。
「かいちょー…ごめんね」
「何で愛咲が謝るんだよ?」
「ずっと疑ってたから…」
「馬鹿か。非があるのは俺の方だろうが」
こんな事になるならお前に言って実家に戻れば良かった、と苦々しい表情を浮かべたまま呟く会長に俺は少し驚いた。だって“あの”会長が自らの非を認めるような発言をするなんて…。驚きで目を白黒させる俺に気が付いた会長は、クシャリと俺の髪の毛を一度だけ撫でると犬塚に視線を向けた。
「おい、犬塚」
「何だ?」
「てめぇはどうなんだ?」
そうか。もしかしたら犬塚も同じように理由があるのかもしれない。俺は犬塚の言葉を待つ。
「俺はあいつの従兄弟だ」
「…あいつ?」
「陽太」
聞き覚えが有り過ぎるその名前は編入生の名前だ。突拍子もない話の始まりに驚いたが、それよりもあいつと犬塚が従兄弟という事実に俺は更に驚いている。
「陽太のお守りを任せられていたから離れられなかった」
「…そうなんだ」
「本当は愛咲と一緒に居たかった」
まるで恋人に弁明するような懇願の目を向けられて俺はどう反応を返せばいいというのだ。意地でも反応してやらんぞ。いいから、話を進めてくれ。会長の人を殺さんとばかりの睨みが怖くないのかお前。
「だけど俺が愛咲と居ると陽太が邪魔する」
「へ?何で?」
「多分陽太も愛咲が好きだから」
「はぁ?…いやいや、それはないでしょー」
「だから陽太と副会長を連れて、俺は部屋で仕事してた」
途中訳の分からない解釈が入ったが、犬塚の言っている事を要約するとこうだろう。転入生が俺の仕事の邪魔をしないように犬塚が部屋に引き連れていたと。そして犬塚は部屋に仕事を持ち込んで終わらせていたと。
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