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チャラ男会計総受け(無口クール書記×チャラ男会計(中身平凡))
そして打開策を思いつくことなく、あっという間に翌日になり、俺はビクビクしながら学校へ行った。
『会計の化けの皮剥がれたり!』とか『チャラ男会計、未だ童貞!』とか学校新聞にあることないことまで下世話な事を書かれているのでは、と内心不安だったのだが、そんな事は一切なかった。というか、そんな噂が一つも立ってはいないようだ。
「………」
そ、そうだよな…。
よくよく考えて見るまでもなく、犬塚はそんな事をする奴じゃないよな。ベラベラとお喋りする方でもないし、ましてや人の弱みにつけ込んで悪口を言う奴でもない。
これが双子の庶務や会長様だったら話は別だけど。
あいつらが犬塚の立場だったら、絶対に愉快犯に走ると思う。多分。いや、確実に。
でもそういえば、犬塚も会長もあの破天荒な転入生と絡んでいるの最近見てないなぁ。副会長や双子は未だべったりのようだけど。
まぁ、最近は色々と仕事が忙しいからな。五割以上は転入生が起こす騒ぎの所為だけど。
「とにかく、放課後犬塚と話そう」
うん。そうしよう。
そして放課後。
案の定、生徒会の仕事は多い。それなのに副会長と双子は居ないのだが。どういうことだよ…?あいつらまた生徒会の権限使って授業も休んだんじゃねぇだろうな。ろくに仕事もしないくせに、権限だけは一丁前に悪用しやがって。
でもまぁ。以前と比べると全然マシか。会長と犬塚は居るんだから。それにあいつらのお陰で宇宙人のような転入生が此処に来ないのは何よりの救いだな。
「おい馬鹿」
「………」
「こら、聞いてんのか」
「………」
「チッ、愛咲てめぇ話を聞きやがれ」
「んー?かいちょー、なぁに?」
「一回で返事しろ、馬鹿」
「俺、馬鹿って名前じゃないもーん。ちゃんと愛咲っていうすばらしー名前があるから」
わざと怒らすように語尾を延ばしながら挑発した喋りをすれば、会長はもう一度舌打ちをした。
「てめぇぶん殴るぞ」
「そんなことすると、俺の可愛い可愛いセフレちゃん達に怒られちゃうよ」
「知るか、ボケ」
まぁ、俺にセフレなんていないけど。
恐い恐い親衛隊長は居るけれども。
「くそ。てめぇと話してると話が進まねぇ」
「ふふ、ペースが乱れちゃってるよダーリン」
会長はなんだかんだ言いながらも暴力は振るわない。
それが分かっているので、俺はいつも軽口を叩いてわざと怒らせるように挑発している。反応や返しが面白いんだよな、会長は。このやり取りが俺は結構好きだったりする。おまけにストレスも発散出来たりする。一方の会長は逆にストレス溜まりまくりだと思うけど。
しかし。
きめぇとか言われちゃったよ。地味にショック。
だけど。うん。俺もそう思う。さすがにダーリンはなかったな。俺、きめぇ。
「…それで?」
「あ?」
「かいちょーは俺に何の用事?」
「…これだ」
「んー?」
「この書類犬塚と二人で片付けろ」
「…ふ、たりで?」
会長の言葉に思わずドキッとしてしまった。
今までならば何とも思わなかったことなのに。むしろ犬塚に教えるのが楽しいと思っていた俺からしてみれば、結構好きな仕事だったりする。
だ、け、ど。
それは昨日のあの事件が起こるまでの話だ。
まともに話や弁解の言葉を言う前に、こうして二人で仕事をしなくてはいけないとか…。
ど、どうしよう。
チラリと横目で犬塚を見る。
「……、」
そうすればバチリと目が合ってしまってびっくりしてしまった。
な、何だよ。その目は。表情の変化に疎いとか言われている犬塚だけど、俺からしてみればそんなことないから。何で今日に限って鋭い目でこっちを見てくるわけ…?!
やっぱり昨日のことか。昨日のことを怒っているのか?!いやいや、怒りたいのはむしろ俺の方だから。
初キスを奪われたんだから。男に。
ううう。思い出したら余計に空しくなってきた。
だがここで俺のペースを崩してはいけない。だって此処には俺と犬塚だけではなく、会長も居るんだから。
とにかく。
会長には勘付かれないようにいつも通りに犬塚に接しよう。きっと俺が普通にしていれば、犬塚も普通に接してくれるはずだ。弁解は会長が居なくなってからだ。
「じゃぁ、犬塚。二人でちゃちゃっと終わらせちゃおーう」
「………」
無視かよ、こんにゃろう。
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