チャラ男会計の受難 | ナノ


35

チャラ男会計総受け状態。担任×会計

「お前な、気を遣い過ぎだ」

「いや、そんな事はないと思うけど」

否定するものの、すかさず「いや、遣っているだろ」と突っ込まれてしまえば、それ以上何も言えなくなってしまった。でも年上に多少の気を遣ったり、気を配ったりするのは当然の事ではないだろうか。そう思ったが、年上に気を遣う事が出来ないというより、しようとはしない者がかなり身近に居る事に気付き俺は苦笑いを浮かべる。

「その間延びした喋り方へのキャラチェンジも何かの理由があってなんだろうが、無理して頑張り過ぎるなよ」

辛くなったら俺でも誰でもいいからすぐに頼れ。なっちゃんはそう言って、俺の髪の毛を掻き混ぜながら撫でてくれた。

「…うん」

なっちゃんのその発言が嬉しくて素直に頷いた。…のだが。

「はっ?!あ、…え?!」

自然過ぎて聞き逃す所だった。今何でもないようにサラリと衝撃的発言をしなかったか?!“間延びした喋り方へのキャラチェンジ”?

「…何だ?どうした?」

ポカンと阿呆のように口を開けて呆ける俺を見て不思議に思ったらしい。なっちゃんは俺の様子を伺うように顔を覗き込んできた。

「………」

「…愛咲?」

「あ、いや、その」

ここは深く訊ねた方がいいのだろうか。でも何て訊ねるよ…。「俺のチャラ男が演技だって知ってたの?」ってか?それこそ阿呆か。そんな事訊くの恥し過ぎるだろ。どんな顔して訊けばいいのか分からねぇよ。というか今だって凄く恥ずかしいんだけど。顔がどんどん熱くなっていくのが自分でも分かる。

「顔赤いぞ?」

分かってるからわざわざそこを突っ込まないでくれ。余計に恥ずかしくなるから。
もういいや。とりあえず今回は保留とする。今のは聞かなかったふりをしておこう。そうだ。聞き間違いだったんだ。俺の完璧な演技が見破られるはずがない。

「な、何でもないよ」

「そうか。…部屋を片付けてくれてありがとうな」

「あ、うん。大丈夫だったならもっと本格的に片付ければ良かった」

「だから気を遣うなって。いいんだよ、適当で」

どうせすぐに散らかるからな。と当たり前のように真顔で言うなっちゃんに思わず笑ってしまった。

「なっちゃんって綺麗好きかと思ってた」

「俺は結構適当な人間だ」

「何でそこで威張るの?」

プッ、と吹き出して笑えばなっちゃんもニヤリと笑う。

「どうしようもなくなったらお前に片付けて貰うから大丈夫だ」

「…俺が断ったら?」

「断らねぇだろ?」

「まぁ、そうだね」

「俺はお前のその優しさに付け込むから」

「なーんか嫌な言い方。なっちゃんなら別にいいけどさぁ」

「だからお前は俺以外に付け込まれるなよ?」

「……?、うん」

何だか変な方向に話が流れて行ってしまったような気がする。よく意味が分からなかったが、とりあえず頷いておいた。気持ちが籠っていない俺の返事だったが、なっちゃんが満足そうに笑ったからこの返事で合っていたのだろう。

そして会話に一段落が付いた所で、なっちゃんは腕時計をチラリと見た。

「六時過ぎか…」

「ご飯にする?」

「お風呂にする?」

「それとも、俺?…って、馬鹿!変な事言わせないでよ」

「お前が乗っただけだろうが」

「むー」

少し前まではただの堅物で嫌味な奴だと認識していたのだが、話せば話す内に全然違う事に気付いていく。こんなノリがいい会話はこの学園に来て初めてなような気がする。前の学校ではこういう馬鹿な会話が多かったけれど、今は全然ないからな。素で話せる感じが楽でいい。

「腹減ったか?」

「減った!」

「ふっ…、だったら頼むか」

「うん、お願いしまーす」

安い物。なるべく安くて美味しそうな物を選ぼう。メニュー表を眺めながらそう考えた結果、サンドウィッチとポテトサラダを単品で頼む事にした。なっちゃんは俺の選択に眉を顰めていたが、そのまま何も言わずに電話を掛けに行った。

そして。
それから待つ事三十分弱。頼んだご飯が部屋に届けられたのだが。

「…あれ?」

俺が頼んだはずのサンドウィッチとポテトサラダとは別に、何故かなっちゃんの分だけではなく、二人分の和風御膳がお盆の上に乗っていた事に俺は目を白黒させた。
ん?配膳違い?

「ああ。悪い。俺が頼み間違ったようだ」

「……へ?」

「俺一人では食えねぇから、愛咲それも食ってくれ」

何でもないようにそう言ってのけるなっちゃんに俺はこう思った。
ああ、やっぱりこの人には適わないな、と。

気を遣い過ぎているのは俺ではなくなっちゃんじゃない?と訊ねようとしたが止めておくことにする。




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