チャラ男会計の受難 | ナノ


33

チャラ男会計総受け状態。担任×会計


「…ねぇ、なっちゃん?」

「何だ?」

「頭を撫でるの癖、なの?」

なっちゃんは一年からの担任で、生徒会顧問。だからなっちゃんが一部の生徒と親密な関係を持っていない限り、俺は普通の生徒よりかは接点はあるだろう。でもだからといって、こんな風に頭を撫でられ始めたのは此処最近の事だ。それにどれだけ女子のような可愛いらしい生徒達に囲まれていても、なっちゃんがこのような事をしている所を一度も見たことがない。

…それって、つまり。
自惚れだと言われてしまえばそれまでだけど。
それなりになっちゃんから気に入られていると思っていいのだろうか。

「どうなの?」

「…あー」

「ねぇってばー」

だがその期待は。
言い渋るなっちゃんの口によって、淡くも消え去る事となった。

「お前の頭って撫でやすいんだよ」

「……は?」

「いい位置にあるというか」

「な、何それ!俺が小さいって言ってんの?!」

「そうは言ってねぇだろ」

「俺にはそうしか聞こえませんー!」

あまり好きではないけれど毎朝欠かさず牛乳を飲み、無糖ヨーグルトだって鼻を摘みながら食べている。それなのに俺の身長は一向に伸びてくれない。それどころか昨年と比べて数ミリ縮んでいやがった俺の背。身体測定日から数ヶ月経ったが未だに絶望している。
そう。だからつまり今の俺にその発言はタブーなのだ。

「何だ?怒ってるのか?」

「べ、別にぃっ。怒ってないですけど?」

「怒ってるじゃねぇか」

言葉では一応否定してみるものの、怒っているのをアピールするかの如く、わざと頬を膨らませて拗ねた様な態度を取れば、なっちゃんは苦笑した。

「褒めたつもりだったんだがな」

「はぁ…?あれで?」

俺には喧嘩売っているようにしか聞こえなかったんだが。何処をどうすれば先程の発言を褒め言葉として受け取れたのだろうか。俺か?俺がおかしいのか?俺が短気過ぎるのか?
…それならばここは俺が寛大な心を持って話を流すのが得策なのかもしれない。

「と、ところでさ。今日の放課後どうする?俺作ろうか?」

少し強引な話の持って行き方だっただろうか。いや、この際どうだっていいや。
身長の話から遠ざけられれば何でもいい。

「いや、今日は俺が振舞おう」

「まじで?いいの?」

「いいも何も俺から誘ったんだ。奢らせろよ」

「きゃっ、なっちゃん男前!もう惚れちゃいそう!」

「惚れ直したじゃなくてか?」

「そうとも言う」

ふへ…と腑抜けた笑みを浮かべてそう言えば、なっちゃんはまたもや俺の頭を撫でた。なっちゃんが俺の頭を撫でる理由がいまいち気に食わないが、可愛がって貰っているというのは変わらない事実なのでそこまで嫌な気はしない。しかし今日だけで何回頭を撫でられただろうか。数えてはいないが、きっと相当な回数になっているに違いない。

「今度は愛咲が作った飯食わせろよ」

「もちろん。俺で良かったら任せて」

大した料理は作れないけれど。と笑いながら付け足せば「お前以外にこんな事頼まねぇよ」となっちゃんは答えた。まぁ、確かにお坊ちゃん達が通うこの学園の生徒の中では俺の料理の腕は上位に食い込むかもしれない。上級者も居るだろうが、きっと料理すらしたことがない人達がわんさか居るだろう。その人達と比べれば食べれる物が作れるはずだ。

「普通の家庭料理しか作れないけどね。あんまり期待しないでね」

「楽しみにしてる」

いつも高級料理食べているから一般的な家庭料理を食べてみたいのか?

「でも今日は俺の舌を満足させてよね、ダーリン」

「任せろ、ハニー」

その後なっちゃんは、学校から車で一時間程度走らせた場所にある店に行こうと提案してきたのだが、俺がすかさず却下したのだった。そこがラーメン屋とかファミレスとかならば喜んで頷いただろうが絶対そうではないから。奢って貰うのだけで申し訳ないのに、高級料理店とか流石に気が引ける。
というわけで学校の食堂の料理を奢って貰う事で話は落ち着いた。

「チッ、一丁前に遠慮しやがって」

「俺はなっちゃんと一緒に食べられれば何処でもいいからさ。学校でゆっくり食べようよ。ね?」

「…仕方ねぇな」

「食堂の料理久しぶりだなぁ。楽しみぃ」

食堂でも奢って貰うにはまだ高いくらいだけど。なるべく安い物を頼む事にしよう。

「愛咲」

「んー?」

「これからどうするか?」

「なっちゃんは授業ある?」

「俺は六限目にSクラスで授業だ」

「うーん。じゃぁ俺も六限目だけ出ようかな」

それまで此処でお昼ご飯食べて、生徒会の仕事してていい?と訊ねれば、なっちゃんは苦笑いを浮かべながら「好きにしろ」とだけ答えてくれた。
怒らないどころか断らないなんて。
存外、なっちゃんは俺のこと好きだよな、と俺は一人隠れて笑ったのだった。




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