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チャラ男会計総受け状態。担任×会計
授業で使う社会科の資料を寮に置き忘れていた事を思い出して取りに行った結果。教室に辿り着く前に無情にも四限目の始業のチャイムは学校中に鳴り響いたのだった。
…さて、どうしたものか。
遅れて授業に参加するのは嫌だ。クラスの皆の授業の邪魔はしたくないし、目立ちたくもない。それに第一、このまま行けば確実に遅刻した事をなっちゃんに怒られるだろう。
それならばこのまま授業に行かないのも手かもしれない。確かに授業に顔を出すと言ったものの、その前に生徒会の仕事次第かなとも言ったはずだ。
うん。そうだ。よし、やっぱり行くのは止めよう。
教室に向かっていた身体を反転させ、身体を一時休ませるために寮に向かって歩き出す。
一歩、二歩。三歩。
そして丁度十歩目に掛かろうとした時。
「……あー、クソッ!」
俺は何故か自分でも訳が分からないまま、唸りながら再び身体を反転させ、社会科の資料を手に抱えながら廊下を猛ダッシュさせて教室に向かったのだった。
そして走った所為で息を荒げたまま、微かに中からなっちゃんの声がする教室の扉をガラッと乱暴に開けた俺は。
「うわぁん!なっちゃんごめーん!遅れちゃったぁ!」
皆に迷惑を掛けてしまっていると頭で理解しながらも、大声で謝罪の言葉を喚いたのだった。
「うるせぇ!」
そして案の定、怒られる俺。
出席簿で割と本気の力で頭を叩かれました。
「いたぁ…い」
「遅刻したなら遅刻したで、静かに入って来い」
「…うん、ごめんなさい」
「他の生徒の迷惑になるだろうが」
「うん。その通りです。…皆、ごめんね?」
叩かれた箇所を手で押さえながら頭を下げて謝れば、クラスの皆は「気にしないでください!」とか「僕ら下賤の民なんかに頭を下げないでください!」とか言って許してくれた。というかこんな場で下賤の民という言葉を聞くとは…。
「皆優しい。ありがとぉ」
チャラ男っぽくへにゃりと力の抜けた笑みを浮かべれば、クラスの皆は悲鳴と雄叫びを上げた。あ、自分の所為とは言えちょっと煩い。これではまた俺がなっちゃんに怒られてしまうじゃないか。でも皆の授業の邪魔をして迷惑を掛けてしまったのは本当に悪いと思っている。
「おい、こら。お前はもう黙ってろ」
ポンっと頭に大きな手の平が置かれて、また叩かれると思って身構えたのだが、なっちゃんは暴力を働くことはなく、一度だけ俺の髪の毛をクシャッと掻き混ぜると「席に着け」と言ってきた。
俺はこれ以上騒ぎを起こさないように、言われた通り自分の席へと向かう。
「愛咲、遅刻した罰だ。授業終わったら社会科研究室な」
「…うえ」
だがその道中、お昼に呼び出しの命令を受け、俺は心の中で悪態を吐いたのだった。
「ああ、やっぱりサボればよかった」と。
昼飯の時間をまたゆっくり味わえない苦痛に眉間に皺を寄せる俺とは正反対に、何故か一部の生徒はキャーキャー叫び出した。
聞き耳を立てれば「成瀬先生と愛咲様ってやっぱり…っ」、とか「禁断の愛だよね!教師と生徒の禁断の愛物語!」と盛り上がる声が聞こえてきて、更に眉間に皺を寄せてしまったのは言うまでもないだろう。
そこ違うから。それを言うならば「教師と生徒の友情物語」とか言ってくれ。
というか、やっぱりって何だよ。やっぱりって。
「ふぅー」
自分の席に着いて、大きく溜息を吐く。何だかどっと疲れた。色々な意味で。
やっぱり遅刻して授業に参加するのは良くないな。先生にも生徒にも迷惑を掛ける上、精神上宜しくない。
このまま目を瞑ってしまったら三十秒で夢の中に飛び込めそうな気すらする。
「………」
大体何で俺は今此処に居るんだろう。このような事態になってしまうことは少なからず予想は出来ていた。だから一旦行くのは止めて寮に戻ろうとしていたというのに…。
自分が取った行動だというのに理解不能だ。
「(……全体的になっちゃんが悪いんだよ)」
多分、「…断られるのは嫌だろ」とあの時生徒会室で呟いたなっちゃんの言葉が離れていなかったからだと思う。だから思わず身体が動いて授業に出てしまったのかもしれない。
あ、だったらやっぱりなっちゃんの所為だ。
妙に納得行く答えが見つかって安心してしまったのか、俺はお昼の暖かい日差しの効果もプラスして、そのまま静かに眠りに就いたのだった。
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