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チャラ男会計総受け状態。書記×会計
嘘も飾り気もなく、好きだと言われて嫌な気はしない。
例えそれが男相手で、恋愛感情での好きだとしても。
だけど。
「俺の、…何処が好きなんだ?」
正直、困る。
犬塚に好いて貰える理由が分からないんだ。俺にはそんな魅力も取り得もないから。
女の子のような柔らかさもなければ、この学園の生徒のような可愛げもない。
性格だって最悪だ。それは俺が一番分かっている。素直じゃなくて捻くれてるし、口も態度も悪いし、愛想もない。
それに、ほら。二重人格者みたいだし?
「犬塚に愛される程の価値は俺にないよ」
男同士という禁忌を乗り越えて愛す程の価値など俺にはない。
「婚約者が居るんだろ?その子を大事にしてやれよ」
俺なんかに向ける愛は、時間と労力の無駄遣いだ。将来の事を考えても犬塚の為にはならない。しかも財閥の一人息子となれば尚更だ。
な?と同意を求めるように下から覗き込むように訊ねれば、「…煩い、黙れ」とだけ返事が返ってきた。
「…犬塚?」
「愛咲の価値も、俺が誰を好きになるのかも、決めるのは俺だけだ」
「な、何だよそれ?」
「愛咲の事を悪く言う奴は、例え愛咲自身でも許さない」
「…ば、馬鹿じゃねぇの」
犬塚の言葉に咄嗟に生意気な言葉しか口から出なかったが、犬塚のそのお叱りの言葉は意外と嬉しかった。だけどその反面、更に不安にもなる。
「犬塚は、俺の何処が好きなんだよ?」
差支えがなければ教えてくれと頼んだ俺を見て、犬塚は吐息を吐くように笑った。
な、何だ、その笑い方は?どういう意味だ?
「残り四十分程度では全て言い切れそうにないな」
「…な、っ?!」
どんだけ言うつもりなんだよと、俺は渾身のツッコミを犬塚に入れてやった。
冗談だとしてもオーバーに言い過ぎだろ。
「て、適当な事言ってはぐらかすなよ」
「冗談だと思っているのか?」
「当たり前じゃねぇか」
「…冗談ではない」
すると犬塚は俺の反発に腹を立てたのか、少しだけ顔を顰めた。
そして。先程の発言が冗談ではない事を証明するかのように、次々と俺のことについて述べ始めたのだ。
誰に対しても折れぬ信念を貫く所が好きだとか、人一倍責任感が強く、何でも最後までやり通す所が好きだとか、誰も世話をしようとしない花にこっそりと水をあげている奥深い優しさを持っている所が好きだとか、耳を塞ぎたくなるようなその他色々まで延々に。
「ちょっ、馬鹿!もういい…!」
「何だ?まだこれからだぞ?」
「…っ、勘弁してくれ…」
これ以上言われたら羞恥で死ねるような気がする。
いや、割りとマジで。顔が熱くて熱くて堪らない。
というか、何で俺が花に水をあげていること知ってるんだよ…っ。
みっともない程に赤くなっているであろう顔を隠すために、ズルリと壁に凭れながら座り込めば、犬塚は上から覗き込むように俺を見下ろしてきた。
「こっち、…見んな」
「怒った顔も、笑った顔も可愛いと思っていたが、照れている顔も一段と可愛いな」
「う、煩い…!黙れ馬鹿!」
わだかまりが解けて、こうして前と同じように犬塚と話せるようになって嬉しいと思う反面。実はこいつが一番の曲者なのではないかと今更ながらに俺は実感したのだった。
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