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チャラ男会計総受け状態。書記×会計
それから会長は何度か俺に自分の名前を呼ばせると、満足そうな笑みを浮かべたまま、俺の髪の毛を掻き混ぜるようにワシャワシャと撫でた。会長の突然の行動に驚いたけれど、不思議と嫌悪感は湧かなかったので俺は会長のしたいがままにさせた。
そして、暫くして。会長はそのまま何事もなかったかのように席に着いて、真面目な顔で溜まりに溜まった書類の山に判を押し出したのだった。
「………」
正直。
訳が分からん。
会長は一体何がしたかったんだ?俺に嫌がらせをするだけしたら満足したのか?
あれやこれや考えて、会長の真意を探ってみたものの。目の下に隈を浮かべながらも真剣に書類を片付けていく会長を見て、俺はその思考を途中で遮断させた。
そんな事より先に、サボっていた一週間分を償えるように働こう。
そして会長と犬塚の負担を出来るだけ取り払おう。
そう意気込んで席に着いた時だった。
ガチャリと音を立てて生徒会室の扉が開いたのは。
「……あ、」
反射的にそちらに目を向ければ、今まで不在だった犬塚が姿を現した。
「い、犬塚…ひ、久しぶりぃ」
いきなりの事だったので。何度も頭の中でシミュレーションしていた気の利いた台詞など言える訳もなく。俺の口からは何とも馬鹿げた言葉しか出なかった。
犬塚はそんな言葉を吐いた俺の方に一度だけ視線を向けると、何事もなかったかのようにすぐに俺から視線を外し席に着いた。
黙々と書類にだけ目を向ける犬塚。
それはまるで俺が居ないように接しているよう。
「…い、ぬづか」
犬塚からそんな素っ気無い反応をされたのは初めてで。
自分を守るために逃げた己の行動でどれだけ犬塚を傷付けてしまったのか、今更ながらに嫌な程痛感した。
犬塚に好きと言われて。その返事は後でするとか言っておきながら避けるように逃げて。
どう言ったら犬塚を傷付けないで断れるだろうかと気を遣う以前の話じゃないか。
俺の身勝手な行動でどれだけ傷付けてしまったんだろう…。
一週間、そう一週間。犬塚はどういう気持ちで居たんだろうか。
悲劇のヒロイン気取りかよ…。俺は馬鹿だ。
「犬塚!」
ドンッと音を立てて机を叩きながら勢い良く立ち上がる。
そうすれば名前を呼ばれた犬塚だけではなく、会長すらも俺に視線を向けた。
再びこちらに視線を向けてくれた。その目には先程のような冷たさはなくて少し安堵する。
「ちょっと、話がある。来て」
有無を言わさない内に、強引に腕を引っ張て連れ去ろうと試みる。
「愛咲、」
だが生徒会室を出る寸前で、会長から呼ばれてしまい俺は足を止める。
忙しいこの時期だ。もしかしたら止められてしまうのだろうか。
「四十五分だけだ。時間内に戻って来い」
内心冷や冷やしたものの、どうやら意外にも了承を貰えたようで。
気を遣ってくれた会長に感謝の意味も込めて、「ありがと、焔会長」とだけ述べて、俺は再度犬塚を引っ張って生徒会室から出たのだった。
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