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チャラ男会計総受け状態。会長×会計
「愛咲」
「な、なんですかぁ?」
「よく聞こえなかった。もう一回はっきりと言ってみろ」
ちゃんと聞こえてたくせによく言うよ。
つまり会長が言いたい事は、「先程の無礼な発言は不問にしてやるから、正しい事を再度述べ直せ」ということだろう。
そんなに己のキステクが低いと言われて腹が立ったのだろうか。
だが残念だったな。如何せん、俺の方が会長の何百倍以上も腹が立っている。
そんな俺が素直に会長が求めている言葉を言うわけがない。
自分の捻くれ度は学園中の誰にも負けないと自負しているくらいなのだからな。
なので俺は会長を挑発するように、手を叩きながらわざとヘラヘラと笑ってはっきりと言ってやった。
「かいちょーのへたくそー」
「……あ?」
そうすれば会長はあからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
眉間の皺が数本増えたのがはっきりと分かる。ふんっ、いい気味だ。このままもっと馬鹿にしてやろう。
「能無しのテク無しぃ」
「はっ、腰砕けてた癖によく言うぜ」
「なっ?!…ちゃ、ちゃうわ!」
だがすぐに言い返されて言葉が詰まってしまった。
何ということだ。腰が砕けていたことがバレていたとは…。
最悪だ。一生の不覚。
この事は今の内に上手く誤魔化さないと後々ややこしいことになってしまうこと間違いなしだろう。
「か、かいちょーより、俺の方が十倍以上上手だしー」
「…ふーん」
あ。何だその不信そうな目は。
俺の事を疑っているのか?まぁ、確かに嘘八百なんですけどね。
まだキスの経験ないから上手いとか下手とか知らないし(野郎とのはキスとしてカウントしない)。
「随分ないい様だな」
「まぁね。自信あるもん」
「そうか。それなら俺にキスをしてみろ」
「…はぁ?何でそうなるの?」
「自信があるんだろう。だったら何の問題もねぇだろうが」
馬鹿か。
問題大有りだっつーの。
何が悲しくてまた男とキスしないといけないんだ。しかも今度は自分から仕掛けるなんて。絶対に嫌だ。無理だ。
「ざんねんでしたぁ。俺は自分より身長の低い可愛い子ちゃん以外とはキスしない主義なんですぅ」
「何だ。逃げんのか?」
「ち、違いますー!」
「だったらしろよ。おら。」
「……っ、」
何こいつ。まじで有り得ない。
こういう時に限っていつもより頭の回転が良いのが腹立つ。偶然なのか、こいつの策略なのか、逃げ道を塞がれた気がする。
そう言われてしまったらこれ以上打つ手がないじゃないか。
「す、すればいいんでしょー、もうっ」
「いい子だ。ほら、愛咲来い」
「………」
ばーかばーかばーか。
色情魔。変態。節操無し。
とりあえず言いたい放題会長の悪口を言いながら俺は腹を括った。
べ、別に大した事ない。犬塚の時と同じだ。犬にキスするような感覚で終わらせればいい。例えそれが舌を入れなければいけない、ディープキスだとしてもだ。
キスの経験はないけれども、もしかしたら俺には天性の才能があるかもしれないじゃないか。
そしたら会長にぎゃふんと言わせるチャンスじゃないか。
「会長…、」
「…どうした?」
「目、瞑って?」
「……ああ」
俺からキスしやすいようにしてくれたのか、会長はほんの少しだけ体勢を低くしてくれた。それは会長なりの気遣いなのだろうが、俺からしてみたら腹立たしい事この上ない。
足の小指でもおもいきり踏ん付けてとんずらしてやろうかとも考えたが、俺は気付かれないように一度だけ深呼吸をしてから会長の頬に手を添えた。
そして俺も目を閉じる。
別にムードとかマナーとかではなく、視界を遮断したかっただけ。
そう。それだけだ。深い意味など決してない。
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