17
チャラ男会計総受け状態。会長×会計
来て欲しくないと思っていても。
時間よ止まれと願ってみても。
そんな思いや願いが叶うわけもなく。無情にも放課後はやって来た。
「………」
正直言って行きたくない。
でも「今日は生徒会室に行く」と約束した以上、それを裏切るような行動は絶対に取りたくない。だから今俺は人通りがほとんどない静かな廊下をゆっくりと一人で歩いている。
「(…それに、)」
つい先程も励まされたばかりだ。
SHRが終わったにもかかわらず、その場から動けずにウジウジしている俺の背中をトンッと前に押してくれたのもなっちゃん。しかも極めて優しい声で「一緒について行こうか?」とまで言われた。
そこまでしてもらって逃げ出すなんて情けない。
行くよ。行くに決まってるだろ。別にあいつらなんて怖くもなんともねーし。
それになっちゃんも逃げる日が長くなればなるほど、後からもっと行きにくくなるのが分かっていて俺に言ってくれているのだろう。
…でも、それだったら。
あの時はなっちゃんに「子ども扱いするな!付き添いなんかいらないから!」と啖呵切ってしまったのだが、お言葉に甘えて生徒会室前まで一緒に来て貰えば良かった。どうせ今はチャラ男キャラを演じているわけだし、少しくらい甘えてみせても良かったのではないだろうか。
しかしなっちゃんは本当にいい先生だな。昨今では珍しい教師だと思う。目付きも口も悪いけれど。
あれはこの学園でモテてしまうのは仕方のないことだろう。俺は男に興味ないから別に惚れはしないけれど。
そんな事を思っていると、知らずのうちに口角が上がってしまっていた。緊張が少しだけ解けたような気がする。
「よし」
一丁頑張ってみるか。
大丈夫、大丈夫。チャラ男っぽく陽気に入ればいいだけだ。
そして深呼吸をした後、俺は一週間振りに生徒会室の扉に手を掛けた。
「おっはよー!」
扉を勢い良くガラッと開けて、放課後のこの時間には似つかわしくない台詞を大声で放ちながら生徒会室に足を踏み入れる。
「…あれ?」
「……あ?」
しかしそこには犬塚の姿はなく、目の下にクマを付けた会長だけがいつもの席に座っていた。
必然的に目が合えば、少しだけ驚いた表情をしている会長。そしてかくいう俺も、てっきり二人居るものだと思っていたから、少し戸惑ってしまった。
「あ、えっと…」
「………」
元気よく登場したのはいいものの、次に何を言えばいいのか分からない。というか会長の目元に出来たクマは確実に俺の所為、だよな?
まずは最初に「仕事をサボってごめんなさい」と言うべきか。
「…愛咲」
どう言い出すべきか迷って何も言えないままの俺。しかしそんな俺よりも先に会長が口を開いた。
「な、なぁに?」
「コーヒー」
「……は?」
「コーヒーを淹れろ」
「あ、はぁい。りょーかいです」
てっきり怒られると思っていただけに、会長のコーヒー淹れろ発言に少しびっくりした。確かに皆の分の飲み物を用意するのはずっと前から俺の役目だったけれど。
逆らう必要性もなく、俺は素直に会長の言葉に従った。
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