チャラ男会計の受難 | ナノ


14

チャラ男会計総受け状態。担任+会計



会長に噛まれ、犬塚に告白されたあの日からすでに一週間が経った。とても過激で非日常な出来事だったのだが、時間が経てば勝手に解決してくれると思っていた。
だけどどうやらそれは違ったようだ。
会長に噛まれた傷は未だに痛々しい痕が残っているし、犬塚からの告白には何と言って断るべきなのかまだ迷っている。

結論から言えば。
俺はあの二人と面と向かって会うのが嫌で現実から逃げていたりする。放課後に生徒会室にも行っていない。多分この一週間はずっと二人で六人分の仕事をしてくれているだろう。迷惑を掛けているという実感はあるのだが、あともう少しだけ気持ちを休ませて欲しい。

ここ最近はずっと働き詰めだったんだ。俺だって少しくらいは休んだっていいだろう。


「(でも。だけど…やっぱり、悪いよな)」

一人分の仕事が増えただけでより大きい負担が掛かってしまうのは、俺が一番分かっているはずだ。それなのに病気でもないのに私情を持ち込んでこれ以上休むのは大変申し訳ない。

だから。
今日は、行こうかな。
十分休養させて貰った。
何にもなかったかのように「ひっさしぶりぃー」とおちゃらけて行けば場の空気も崩れないはずだ。変な追及もないだろう。そう考えるとチャラ男キャラも案外便利なものだな。


そう覚悟を決めた時だった。


「おい、愛咲」

背後から声を掛けられたのは。
反射的に後ろを振り向いて声の主を見れば、そこには担任教師の成瀬が居た。ちなみに生徒会顧問だ。


そして。
俺の大の苦手な人だったりする。


「なーに?」

「ついて来い」

「えー。貴重なお昼時間なのにぃ。ご飯食べそこなっちゃうじゃん」

「飯持って来い」

「ぶー。なっちゃんの意地悪ー」

「なっちゃん言うな馬鹿」

持っていた出席簿でペシッと頭を叩かれた。
全く痛くなかったが頭を押さえて「いたぁい」と言えば鼻で笑われた。
こういう所も会長に似てて嫌いだ。
だがまだ会長の方がマシ。会長は俺にとってのストレス発散相手でもあるし。何より根本的に成瀬の方が性格に難有りなのだ。それにしつこい。
腹立つことだがこいつには口で勝てそうにない。


「お昼ご飯取ってくるから先に行っててくださーい」

「…待ってる」

「え?いいよー」

待たせるの悪いからなっちゃんは先に言っててと再度告げるのだが、成瀬は頷いてくれない。
それどころか、俺を疑っているようで。

「待ってねぇとお前逃げそうだし」

チッ、バレたか。と俺は内心舌打ちをする。


「むー。信用ないなぁ。いいよぉ、取って来るから待っててね」

「ああ」

逃走経路は絶たれた。
非常に嫌だが仕方がない。ここは素直に従うのが吉だろう。俺は途中声を掛けてくる奴等に愛想を振りまきながらも早歩きをして教室に入った。
待たせるのも悪いという気持ちもあるが、何より貴重な昼飯の時間が一秒でも短くなるのが嫌なので成瀬の元に急いで戻った。


それだというのに。


「先生何してるのー?」

「一緒にご飯食べませんか?」

「あ、先生は僕と食べるの!」

女の子のような容姿をした男達数人に囲まれていた。
俺がこの場を離れて少ししか経っていないというのにこれだ。

だがこの特殊な学校では仕方のないことかもしれない。何せ顔のいい奴は教師だろうと人気があるのだから。
教師の中でも成瀬が一番競争率が高いということは俺でも知っている。
整った容姿に高身長。短めに切られた黒の髪。スーツを着ていても分かる程いい体をしている。だが何より、外見もだが成瀬の性格が人気の秘訣なのだろう。
授業中は厳しいものの、どんな生徒でも平等に扱う。この学校では珍しい。


「先約があるんでな」

「えー?僕達よりも優先すべき人?」

「誰ですか?」

自分に自信があるため成瀬に断れたのが不満なのだろう。今出て行ったら矛先がこちらに向いてくるに違いない。面倒なのは嫌だ。これを口実に逃げようかな。
だが逃げるより先に、教室の扉付近でチラチラと様子を窺っている俺に気が付いたのか、成瀬がこちらにやって来た。


「こいつだ」

そして俺の手を握ると先程の男達にそう言い放った。
ちょっ、俺を巻き込むなよ。変に恨まれたりしたらどうするんだよ。


「愛咲と二人きりで話がある。文句はねぇだろ?」

「…は、はいっ」

「愛咲様とならば…文句一つありません!」

だがどうやらその心配はいらなかったようだ。
だけどそれはそれで何か嫌だ。そして成瀬の言い回しが何処となくいかがわしいのは気のせいだと思いたい。

「おら、行くぞ」

「ちょっ、…なっちゃん、手離してよぉ」

手を繋いだだけでも大袈裟に噂が立つ学校だぞ。
少しは警戒しやがれ。

だが背後から「成瀬先生と愛咲様ってどういう関係なんだろ?!」、「キャー禁断の愛?!」、「でもあのお二人ならお似合いっ」と勝手に和気藹々と盛り上がる声を聞いて時既に遅しと俺は内心涙した。
冗談キツイぜ。






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