10
チャラ男会計総受け状態。会長×会計
「い、…っ」
机に打ち付けられた肩と背中がまじで痛ぇ。しかも背中に受けた衝撃の所為で、一瞬息が止まったぞ。手加減なしかよ。
犬塚といい会長といい、頭おかしいんじゃねぇか。生徒会メンバーの間では、人を机に押し倒す事が流行ってるのか。ふざけんな。お前らのような筋肉馬鹿に一般人の俺が勝てるわけねぇだろ。
「ちょ、…かいちょ、痛いって」
まるで逃がさないと言わんばかりに押さえつけられている肩。負けじと俺も会長の手首を力の限り握りつぶして抵抗をしているのだが、会長は全くビクともしない。
「も、…かいちょー、」
そんなに俺のぶりっ子姿は気持ち悪かったか?そりゃ、悪い事したな。大体俺に会長を魅了する力なんてあるわけねぇだろうが。それなのにやってみろと言い出した会長が悪いんだぞ。俺だけの責任ではないはずだ。
だからこの勝負は引き分けにしよう。と、いつも通りニヘラと緩んだ笑顔を見せておちゃらけようと思っていたのだが…。
「………っ」
ギラリと鋭く光る獣のような目をして俺を見下ろしてくる会長を見て、俺は何も言えなくなった。
「(何をマジになってんだよ…)」
そこまで怒ることないだろうが。
こんなのいつもの冗談の延長戦だろ?それなのにそんな目で見下ろすなよ。
その時は、俺の気持ち悪い姿を見て会長は怒っているのだと思っていたのだが。
そうではない。
だって俺は、…この目に覚えがある。
犬塚だ。
犬塚が俺を見てくる時と同じ目。
…獲物を狙う捕食者の目。
どうにかしてでも今すぐ逃げ出さないといけなかった。暴言を吐いてでも。股間を蹴り上げてでも。
だが俺がその事に気が付いたのはもう既に手遅れだった。
「…ひ、…ぁ、っ」
だって。
もう既に食われてるし。
「い、痛い…っ」
比喩表現ではなく。それは本当に言葉通りに。
「食われてる」のだ。俺の首元に顔を埋めてきたかと思えば、会長は俺の肉を食い千切らんとばかりに歯を立ててきやがった。
ブツリと嫌な音が聞こえた。皮膚を噛み千切られる音がこんなにも生々しいと思っていなかった。
「か、いちょ…やめ…っ」
皮膚が破れ、会長は溢れて来た俺の血を啜っている。しかも仕上げとばかりに、患部にねっとりと舌を這わせてくるものだから、変な感触に嫌でも身体が震えてしまう。
会長にこんな危ない性癖があったとは知らなかった。出来る事ならば一生知りたくもなかった。
やばい。怖い。色々な意味で最後まで食われそう。情けないけど泣きそうだ。
「……愛咲」
「かいちょ…っ」
久しぶりに口を開いたかと思えば熱っぽい声で俺の名を囁く会長。興奮しているのか会長の目は赤く充血している。
そしてそれと同様に、俺の名を呼んだ会長の唇は俺の血で赤くなっていた。
そして会長はその唇を俺の唇と重ねてきた。
「…んっ、」
先程の過激な行動とは打って変わってただ触れるだけのキスだった。
だが優しかろうが激しかろうが、俺が犬塚だけではなく、二人目も男とキスをしたという事実は変わらない。
情けないやら悲しいやら。
目尻に溜まっていた涙がホロリと零れ、頬を伝った時。急に会長が「熱っ」と声を上げた。
「……頭を冷やせ」
どうやら犬塚がホットコーヒーを会長の頭に浴びせたらしい。
ホットコーヒーでどうやって頭を冷やすんだよ馬鹿。
…助けるのが遅いんだよ、ばか。
→