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チャラ男会計総受け状態?
「大体こいつに手を出すとは…」
ゲテモノ好きだな、お前。と犬塚に憐れみの目を向けた会長に俺は心底腹が立った。
まぁ確かに、俺の事をネコの立場として性的な目で見ている犬塚は、物好きの変態馬鹿野郎だと思うけれど。だけど会長から侮辱されたまま反撃もしないのは嫌だ。
「なぁにそれ?俺がゲテモノだって言ってんの?!」
「当たり前だ、馬鹿。何度も言わせるな」
「俺だってそれなりにモテるんだよぉ?」
学園の可愛い子ちゃん達からも人気者だし、と付け加えてみたのだが、自分で言って少し吐き気がした。性的な意味で男に好かれても嬉しいわけないからな。
でもこんなバ会長から「ゲテモノ」呼ばわりされて素直に引き下がれるわけがない。この性格破綻者の会長に言われてしまったらもう終わりじゃないか。
「ふーん。俺の魅力の一つも知らないくせに、いつも口だけは達者だよね、かいちょーって」
「はっ。お前に魅力なんざねぇだろ」
「あ、そんな事言っちゃうんだぁ」
いつも通り語尾を伸ばし、ニコニコと笑みを浮かべてチャラ男の演技に徹しているのだが、俺を見下ろしながら鼻で笑った会長に俺の怒りは静かに最高潮に達した。
「俺がその気になれば会長だって俺にメロメロになると思うのになー」
どうにかしてこいつに一泡吹かせられないだろうか。
いつもより声のトーンを高めにしてゆるやかな口調で喋りながらも、あれやこれや脳内で対策を練る。
しかし。
俺が予想していなかった所で事は動き出すこととなった。俺が適当に放った言葉に会長は乗ってきたのだ。
「いいじゃねぇか。お前が言うその魅力ってやつで、俺を虜にしてみせろよ」
「……へ?」
思考が一瞬停止した瞬間だった。
会長の返しは俺の予想範囲外だったため、おもわず素の声が出てしまった。
「何だ?出来ねーのか?」
「…で、出来るよー!余裕だしぃ」
ニヤニヤと口角を上げて笑う会長に、本当に心底腹が立つ。何だか会長の口車に上手く乗せられてしまったようで嫌だ。ここからでも何とかして俺のペースに戻さないと。
だけど。
「(どうやってメロメロにするんだよ…っ)」
まさか会長がこのような事を言い出すとは思っていなかった。完璧に作戦ミスだ。会長も俺が適当に放った言葉だと分かっていて言い出したのだろう。
…やばい。
このままだとこの阿呆会長に口でも負けてしまう。
でもそれだけは絶対に嫌だ。
大体人をメロメロにする魅力なんて俺なんかに一つもねぇよ。精々出来たとしても、目と頭がおかしい犬塚くらいだ。
「おら、どうした?素直に降参するか?」
「ふ、ふんっ。会長こそ今の内に、俺への謝罪の言葉を考えておいてよねっ」
ああああああ!くそ!
こうなったらやるしかねー!
此処まで来て引き下がれるわけがないのだ。当たって砕けろだ。そうすればどうにかなると思う。…多分。
意を決して会長に近付くために一歩踏み出せば、それよりも先に犬塚に腕を掴まれてしまった。
「愛咲、止めろ」
どうやら俺たちの無駄な争いを止めようとしてくれているらしい。確かにその助けは素直に嬉しい。…だが、時既に遅しだ。犬塚の言葉に素直に「うん、分かったぁ」なんて言ってみろ。少なく見積もっても数か月は「負け犬」と呼ばれ続けるだろう。
俺は会長に見えないように、少し乱暴に腕を振り払いながら、「黙って見てろ」と犬塚だけに聞こえるように凄んだ。そうすれば犬塚はそれ以上何も言えなくなったようで、大人しく俺の言葉に従ってくれた。
珍しく聞き分けがいいな。良い子だ。俺が会長との勝負に勝ったら、後で頭でも撫でてやんよ。
「おい、するなら早くしろ」
「はぁい、ダーリンお待たせー」
待たされて少し苛々しているこの会長を、俺がどうやって落とせというのだろうか。確実に無理ゲーじゃねぇか。
女の子の落とし方すら知らないのに。
いきなりラスボスなんて、ムリゲーのクソゲーだ!
心の中でそんな悪態を吐きながらも、俺は先日見た純愛物のAV(もちろん男女物)でグッと来たシーンを見よう見真似で試してみた。
「(…えっと、)」
まずは会長の両手を取る。
男の手を握ることに多少の不快感があるが、ここはグッと我慢。
会長の手は思っていた以上に大きくゴツゴツした男らしい手だった。ペンだこもあることから、勉強も生徒会の仕事も、会長なりに頑張っているようだ。
「(ふーん。こいつもそれなりに苦労してるんだな…)」
俺は触られただけで痛そうなペンだこを優しく指の腹で撫でてあげた後、指を絡ませながら、会長の両手を上から優しく包み込んだ。
そしてあのときの女優がしていたように、上目遣いで会長を見上げて、首を少し横に傾ける。
「かいちょー、……好き、だよ?」
おまけにあまーい声を出してみる。
あと台詞は適当に補ってみました。
だがやはりと言うべきか。
自分がしてみても色気も魅力も感じ取れない。むしろ鳥肌が立ってしまったくらいだ。
くそ、今回は俺の負けか。そんな事を思いながら絡ませた指を解こうとした瞬間……。
「……っ、?!」
俺は会長の手によって乱暴に机に押し倒されてしまった。
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