こいつ馬鹿。最高に馬鹿。
…山下ひかる。
友達と呼べる存在なのかどうなのか。
俺にははっきりと分からない。
だけど一緒に居て楽で、あいつの隣は不思議と居心地が良い。本人には絶対に言わないが、俺にとって紛れもなく大切な存在である事は確かだ。
だが。
どうしようもないくらい、こいつは馬鹿なんだ。
「おい、海斗!俺、すげぇ事思い付いたんだよ!」
「………」
絶対碌な事じゃねぇ。いっそ聞かずにこのまま逃げ出したいくらいだ。俺は深い溜息を吐いた。
「何だよその態度…?」
「どうせくだらねぇ事だろ」
「違うって!今回のは本当にすげぇから!」
思い付いた俺ってまじ天才だよ!と自信満々に言うひかる。
「………」
…その台詞を何度聞いた事か。そうやって自信たっぷりに言うときに限って碌な事ではない。
「…で?」
「ん?」
「何だよ、思い付いた事っていうのは?」
「ああ!これな、海斗に協力して貰いたいんだよ!」
「……俺の?」
「うん。お前の協力なしでは無理な事なんだ」
「…ふーん」
まぁ。
…頼って貰えて嫌な気はしない。
だがそれは内容にもよる。
「…それで?」
「あのな、お前のチンポ舐めさせてくれ!」
「…あ゛?!」
自分でも驚くほどの低い声が出た。俺といつも一緒に居て慣れているひかるさえも驚いたようで、びくっと一歩後ずさったことに気が付いた。
「いきなり低い声出すなよな。びっくりしたじゃんか」
「……チッ、」
それは俺の台詞だろうが、クソ野郎。
いきなり何を言ってんだこの馬鹿は。
「お前、おかしいんじゃねぇか?」
「は?何が?」
「…何考えてんだよ」
「俺、女の子の事超好きじゃん?」
「……」
「だけど空しい事に彼女は出来ない。…だからさ、考えたんだよ。イケメンのチンポ舐めれば間接的にでも女の子のアソコを舐めた事になるんじゃないかって…!」
なっ、なっ。そうだろ!すげぇ天才的な思い付きだろ!と、はしゃぐひかるの頭を俺はおもいきり叩いてやった。
「…い、痛っ」
「お前、馬鹿だな」
「馬鹿じゃねぇよ!」
「いや…本当馬鹿だ」
「…な、何だよ…」
「ここまで馬鹿だとは思ってなかった…」
何でそこで野郎の物を舐めるという発想に行き着くのかが俺には分からない。理解すらしたくない。
「…ちょっとくらいいいじゃんか」
「阿呆か」
「ちょっとだけだって。本当、ちょっと舐めさせてくれればいいから」
「ふざけんな」
「ケチ!ドケチ!」
「…ああ、もうケチでいいから帰ろうぜ」
「俺、諦めねぇからな!海斗が舐めさせてくれるまで諦めねぇから!」
「………」
本当にひかるは馬鹿だ。
それはもうどうしようもないくらい。
だけどそんなひかるの言葉に少しだけ揺さぶられた俺も相当な馬鹿なのかもしれない。