短編集 | ナノ

 晴れ時々雨



エロ有り、甘々





付き合ってからというと。
雷君はほとんど俺の家に泊まっている。雷君は一人暮らしだから問題はないみたいだし、それに俺の両親も家に帰ってくる事はないから全く問題はない。一秒でも長く雷君と一緒に居られるようになって幸せだ。
あ、だけど。寝るときは別々の部屋で寝ていたりする。以前に「順平と同じ部屋で寝るとか興奮するな…」とボソリと呟いた雷君の台詞を妹は聞き逃さなかったようで、一緒の部屋で寝る事は禁止された。
雷君は今でさえもムスッとして納得していないようだけど、俺はというと実は反対にホッとしていたりする。だって、恥ずかしいから…。
雷君が同じ空間に居るっていうことにドキドキして寝れない思う。



「………」

そんな幸せ絶頂期な俺だけど、実はというと密かな悩みがある。


「順平、辛くないか?」

「は、はいっ」


それは。まさに今の状態の事だ。
恥ずかしくて、嬉しくて、だけど緊張して、心臓が破裂しちゃいそうで苦しい。


雷君が家に泊まるようになってからは一緒に電車通学をしている。降りる場所が一駅しか違わないからこうやって一緒に登校出来るのだ。

そして今はというと通勤ラッシュ時。
人が多いこの時間帯。俺がもみくちゃにされないように、雷君はいつも俺を守ってくれている。向き合うように俺を壁に寄りかからせ、丁度俺の顔の横に両手を置きバリケードを作るかのようにして守ってくれているのだ。


「…あの、」

「どうした?苦しいか?」

「い、いえ、雷君のお陰で大丈夫ですっ」

「そうか。それなら良かった」

「でも…雷君が辛くないですか?」


俺だって今まで一人で電車登校してきたんだ。人に押されるのがどれだけ辛いのかは身を持って知っている。しかも雷君は俺を守るために余計に辛い思いをしているはずだ。足だけではなく、腕も辛いと思う。


「俺は大丈夫ですから…」

「今まで辛い思いをしている順平を遠くから見ることしか出来なかったんだ。…順平を守ってやる特権くらい得てもいいだろ?」


恋人なんだから。
…雷君は続けてそう言った。


「……っ、」


囁く様な甘い低い声が俺の耳をくすぐる。そんな事を言われたらもう何も言えやしない。というか先程の台詞から察するに、雷君は今まで同じ車両に乗っていたのだろうか。俺、全然気付かなかった…っ。


…と、そこで一際強く電車が揺れた。
それと同時に大勢の人が傾く。それは雷君も同様。俺は雷君のお陰で何ともなかったけれど、雷君はこちらに向かって少しだけ身体を倒した。


「……、?!」


ふわりと良い匂いに包まれる。雷君が身体を倒したのと同時に、広い胸の中に納まるように抱き込まれたのだ。突然の嬉しさハプニングにぶわりと身体が震えた。


「今日の車掌は随分荒いな」

「……、ぁ」

「…順平?」

「あ、いえ、…な、何でもない、です」


雷君はすぐに身体を離して、再び俺の顔の横に両手を付いて守ってくれた。だけど俺はというと、先程の出来事にまだドキドキしていたりする。…だ、だって急に抱き締められたんだ。
顔から湯気が出てしまいそうになるくらい顔が熱い。人の話し声や電車の音のお陰で掻き消されているだろうが、俺の心臓も破裂しちゃいそうなほど高鳴っている。


どうしよう。
胸が苦しい。キュって締め付けられている。



「どうかしたか?」


どうやら雷君は俺の様子がおかしい事に気が付いたようだ。心配そうな表情をして俺を見下ろしている。
だけども、俺は声を出せないでいる。
…だって口を開けば、変な事を口走ってしまいそうだから。


「順平?」


だけど。
もう。


色々と限界だ。



「じゅん、ぺ…い」


雷君の着ているブレザーの端をギュッと力強く握った後、俺は自ら雷君に抱き付いた。


「好き、です」

「………」

「大好き…っ」


此処が電車内だということも忘れるくらい俺は雷君の事だけしか考えられなくなっていた。広い背中に腕を回し、抱きつく。今ならこのまま抱き殺されたっていい。むしろそれが本望だ。雷君に抱き殺されたい。
好き、好き、大好き。愛してる。

もう欲望を抑えられなくて、俺は雷君の硬い胸板に頭をグリグリと押さえつけた。


「…っ、く、そ」


雷君の低い唸り声。いきなり俺がこんな事をしたから怒っているのかな?だけどごめんなさい。離したくない。


「順平」

「……ん、」

「次で、降りろ」


妙に低くて熱っぽい雷君の声。
だけど変だな?まだお互いに停車駅はまだ先だ。





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