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「……?!」
俺は咄嗟に口元を手で覆った。
だって、妹にバレたくない。
必死に息と気配を消そうと努力して、妹が俺の存在に気付かないように願いながら強く目を閉じていれば、雷君の指が再び動き出した。
「…ぅ、ァ…っ!」
中に入っていた指の関節を曲げられたのだ。腸壁を押し広げるように弄られて、我慢出来ずに声が漏れてしまった。羞恥と焦りで泣きそうになりながら、俺よりも高い位置にある雷君の顔を覗き込み睨み付ければ、楽しそうに口角を上げて笑っている雷君と目が合った。
「お兄ちゃん?」
…駄目だ。
折角居ないフリをしようと思っていたのに、先程の声の所為で完璧に気付かれてしまった。
「な、…に?」
「あ、お兄ちゃん。やっぱり居たんだね」
「う、うん」
俺の中を蠢く雷君の指が気になる。
圧迫感はなくなったけれど、今はそれとは違う刺激。ゾクゾクする。身体の震えが止まらない。おもわず出てしまう自分の上ずった声を殺そうと努力するものの、雷君の巧みな指の動きでそれすら難しい。
「ン、ぅっ」
「どうかした?」
「な、…んでも、ない、よ」
「変なお兄ちゃん」
扉の向こう側で笑う妹。きっと俺と雷君が中でこんな淫らな行為をしているとは思いもせず、純粋無垢な可愛い笑顔で笑っているんだろう。
そう思うと余計に罪悪感が増えるのと同時に、言いようのない興奮感が俺を襲う。本当に俺は駄目な兄だ。
「あのさ、雷君見なかった?」
「……え?」
俺は妹の言葉を聞いて、パッと雷君を見る。
見てみれば相変わらず楽しそうな表情を浮かべている雷君。どうやら此処に居ることは言わずに居てくれるようだ。
それなら隠し通すまで。
「わ、かんない」
「お兄ちゃんも知らない?」
「う、ん…何処にも居ない?」
「うん。家の中探したけど居ないんだぁ」
そりゃそうだよ。
だって雷君は俺と同じ空間に居るんだから。だけどそんな事を口が滑っても絶対に言えない。
荷物運んで貰おうと思ってたのになぁ。とぼやく妹の声を何処か遠くで聞きながら、俺は小声で雷君に「もう止めてください」と言った。
しかし雷君は聞く耳を持たず、俺の首元に顔を埋め吸い付いてくる。その間にも俺の中に入っている雷君の指の動きは止まらない。
「ひ、ァ…、」
「…お兄ちゃん?」
「な、んでもな、い…よっ」
「…本当?」
「う、ん」
「じゃぁもし雷君に会ったら、私が呼んでいた事伝えといてくれる?」
「わ、かった」
「ありがとう、お兄ちゃん」
妹はそう言うと、パタパタとスリッパの音を立てながらその場を離れていった。
俺はその事に安堵して深く息を吐いた。
「順平」
「…酷いですっ」
「悪い。だけど可愛くて苛めたくなる」
「……っ、」
「順平」
「何です、か?」
「続きは?」
「…っ、もうしません!」
いけしゃあしゃあと言う雷君に俺は泣きながら怒鳴りつけた。多分俺が雷君に怒るのは最初で最後だと思う。でも今回のは仕方ない。だって妹が近くに居たのに、行為を続行するとか有り得ない。
俺は若干腹を立てながらトイレから逃げ出した。
そんな俺の様子を見ながら、相変わらず楽しそうに笑う雷君を残して。
妹「雷君」
雷「何だ?」
妹「…グーで、いいよね?」
雷「……平手の方で頼む」
END
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