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俺の知らない事がたくさん有り過ぎる。
そりゃストーカーのような事をしているから普通の人よりは武宮さんの事を知っているという自信はある。だけど今の武宮さんは全然分からない。何を考えているのかも謎だし、…何より妹と何を企んでいるのかが謎だ。
「…あ、あの!」
どうせなら思い切って聞いてみよう。そう思い勇気を出して声を上げれば、武宮さんは腰が砕けてしまいそうな程の低い声で「…どうした?」と返してくれた。
「…俺…っ、聞きたい、事があるんです」
「……」
「答えて…くれますか?」
「……ああ」
俺はまず武宮さんと妹との関係を訊いてみた。
「妹とは付き合ってないんですか?」と嫌われるのを覚悟で訊ねてみれば、武宮さんは小さく頷く。
「…恋人、ではないんですね」
「そうだ…」
妹と武宮さんが恋人ではないというのは、嬉しいという気持ちもあるが、今はそれ以上に驚きの方が大きい。…何でわざわざ“付き合っていたフリ”をしていたのだろうか。
もしかして俺が武宮さんに恋心を抱いていた事を知っていて、恋人のフリをしていたのではないだろうか。俺を諦めさせるために。二人が手を組んで。
そう思ってしまって仕方が無い。
「……、」
いやでも妹は俺に「頑張れ」と言ってくれたし、武宮さんだってそんな事をする人ではないはずだ。
…でも、だけど。
俺が二人の何を知っているって話だよな。もしかしたら妹にも、そして武宮さんにも、とっくの昔から嫌われているかもしれないし。
二人の事を疑いたいわけではないけれど、自分に自信がないため馬鹿なことばかり考えてしまう。
最悪だ、俺っ。
最も愛している二人を疑うなんて。
「……っ、」
「…おい」
「ふ…っ」
「何故、泣く?」
「……っ、ぅ」
…そんなの。
そんなのっ。
自分の醜さが嫌で嫌で仕方がないからに決まってる。「恋は人を綺麗にする」という言葉は嘘だ。だってその証拠に俺はこんなにも汚い人間じゃないか。
「………」
いや、違うな…。
俺に恋をする資格がないだけか。
もうやだ。何で俺ってこんなにも醜いんだろうか。男とか兄とかそんなことよりも俺の人間性が駄目なんだ。
武宮さんの前で泣くのだけは嫌だったのだが、もう我慢することすら出来ずに幼子のように、ひっくひっくとしゃくり上げながら泣いていたら、不意に頬を大きな手で包み込まれた。
「…泣くな」
「た、けみやさ…ん」
「お前に泣かれると、…困る」
困る?何で?
何故武宮さんがそんな苦しそうな表情するの…?どんどん溢れてくる涙を止める術が分からず、そして武宮さんの言動の意味が分からず、困惑していたら急に武宮さんの端正な顔が近付いてきた。
「…ン、」
…あ、少し動けばこのままキス出来そうなんて悠長に考えていると、チュッと可愛らしい音を立てて唇が一瞬だけ重なった。
「……え?」
その瞬間、俺の涙はピタッと止まった。
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