▼ 4-3
「あ、あの」
「………」
武宮さんはリビングらしき部屋に辿り着くと、俺の腕を離してくれた。…離されてなくなっていく武宮さんの温もりが徐々に分からなくなって妙に寂しくなる。
「…座ってろ」
「は、…い」
そして俺は無表情の武宮さんが少し怖く感じて、素直に従った。床の上に正座する。座った俺を一度見ると、武宮さんは何処か奥の部屋に入って行ってしまった。
「………」
折角大好きな武宮さんの部屋に上がれたというのに、あんまり嬉しさはない。それよりも今は武宮さんに嫌われてしまったのではないかという不安で胸が苦しい。
…だって、いきなり彼女の兄が家の前に居たのだから。それは不思議に思うを通り越して、嫌に思ったに違いない。…いや、あれ?でも本当に妹と武宮さんは恋人同士なのだろうか?
先程の妹の台詞でそれすらも分からなくなった。
とりあえず聞きたいことがいっぱいだ。
武宮さんの前でどもらず聞きたい事を聞けるように、頭の中で予行練習を繰り返していたら、武宮さんが戻ってきた。
「武宮さん、」
「…お茶でいいか?」
「あ、はい。…ありがとうございます」
渡されるがまま、500mlの未開封のお茶を俺は受け取る。
密かに「武宮さんはここのお茶が好きなのか」と心の中でメモをしながら、やっぱりお構いなくというべきだったのだろうかと少しだけ悩んだ。
「………」
「…あの、武宮さん」
「……」
「その…」
「何で、家知ってた?」
「……っ、そ、それは」
ドキッと胸が高鳴った。それは悪い意味で。
そりゃそうだよな。何で家知ってるんだよって話になるよな。
「い、妹から聞いて、その」
「…言ってない」
「……、」
まじかよ。
…もしかして俺が武宮さんのストーカーだという事さえ気付いているのかな?
「…えっと」
「……」
「その、あの」
「…別に怒っているわけではない」
「……」
「理由を知りたいだけだ」
武宮さんの家を知っている理由なんて…。
そんなの武宮さんが好きだからに決まっている。好きだから住所だけではなく朝何時の駅に乗って何時の駅で帰ってくるのかも知っている。…俺がストーカーのような事してたって言ったら引く、よな…?
prev /
next