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「………、」
武宮さんが帰ってからどれくらいの時間が経っただろう。一時間、二時間、…いやもしかしたら日付すら変わってしまったのかもしれない。俺はあれからずっと、ベッドの上で布団を頭から被り全てを遮断している。
光も時間も何もかも。
あんなに毎日ベッドの上で思いを寄せていた武宮さんの事だって今は考えたくない。だって、だって…っ。
武宮さんも俺の事を覚えてくれていたなんて…。まだ憶測だが、おそらくそうだろう。あの口ぶりはあの時の事を覚えているに違いない。
「……っ、」
ということは、俺が武宮さんに思いを寄せている事を勘付かれているかもしれない。そう思うと、凄く怖い。折角話すことも出来たし、握手も出来たし、…それにキスも出来たのに。全て下心有りだったとバレていたのかな…?
もしかしたら嫌われてしまったかな?
「はぁ、死にたい…」
武宮さんに嫌われるくらいなら、死んだ方がマシだ。それに妹に気持ち悪がられるくらいなら死んだ方がマシだ。
だからやっぱりあの時のキスで死ねたら良かったんだ。武宮さんとの濃厚なキスで窒息死なんて、やっぱり今思ってもロマンチック。俺なんて生きる価値もないのに。
頭から布団を被って、もう一度はぁ…と溜息を吐いた所で部屋の扉がコンコンとノックされた。
「…お兄ちゃん?」
「……、」
「起きてる?どうかしたの?」
妹だ…。
今、この世で二番目に顔を合わせ辛い、愛する妹。
きっと俺がずっと部屋に篭っていることを不思議に思ったのだろう。俺が寝ていると思っているならそれを有効活用するまでだ。寝たフリをしてここはやり過ごそう。
「…入ってもいい?」
「だ、駄目!」
「あ、やっぱり起きてたんだ」
「……っ、」
うう、思わず声を出してしまった。
だって、部屋に入られたくなかった…。
「お兄ちゃん具合悪い?」
「…違うよ」
「それならどうかしたの?」
「………」
「私で良かったら相談に乗るよ」
「……、」
「ね?私お兄ちゃんの力になりたいな」
何て優しくて純粋な妹だろう。
そんな妹から武宮さんを無理やり奪うなんて出来るわけがない。それならいっそ身を引いた方が、……いや、やっぱり身を引く事は出来ないかな…。でもずっと想っているだけならいいよな?
「あのさ、」
「…ん?」
「武宮さんの事、好き?」
「雷君?」
「どれくらい好きなんだ?」
妹が俺以上に武宮さんの事を想っているというのならば、この恋は諦めようかとも思う。
「……どう、なんだ?」
「んー」
「…?」
「雷君の事は好きだよ。」
「す、き」
「でもね、お兄ちゃん?」
「…何?」
「私はね、それ以上にお兄ちゃんの事が大好きなんだ」
「……え?」
「だから応援してるよ。大丈夫、雷君ならお兄ちゃんのこと幸せにできるって私思ってるから。…だから、頑張ってね」
妹のその不可解な台詞を聞いたのと同時に、俺は布団から飛び出た。
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