▼ 3-2
「適当に、腰掛けてください」
武宮さんを自室に案内した後、何処でも好きな所に座ってくださいと促せば、武宮さんは了承の意味で再びコクリと頷いた。
すると武宮さんは迷わず俺がいつも寝ているベッドに腰を掛けた。…好きな人が自分のベッドに腰を掛けている姿って何か、ドキドキする。
「……」
「………」
「……」
俺はとりあえず床に置いていたクッションの上に腰を下ろした。そして再びの沈黙。
だけどこの沈黙はそれほど苦に感じない。というのは、今は別の事で頭がいっぱいだからだ。「武宮さんに見られたらいけないものはちゃんと隠してたよな?」、「あのメモ帳は引き出しの一番奥に隠してたから大丈夫なはず!」、「ああ、やっぱり武宮さん格好いい!」、「今俺のベッドに腰掛けてるんだ…」…そんな色々なことが頭の中で駆け回る。
「……」
「………」
しかし俺は自分の部屋に武宮さんが居てくれるだけで満足だが、武宮さんは退屈かもしれない。やっぱりここは俺が会話を提供したほうがいいのだろうか…?
いやいや、落ち着け。それは駄目だ。きっと前回のように会話のチョイスに失敗するに違いない。
それならここは静かに黙っていた方がいいだろう。
そう自分に言い聞かせたのと同時に、勢い良く俺の部屋の扉が開いた。
「お兄ちゃん、大丈夫?!」
もちろん開けたのは妹だ。
…良かった。変なこと口走っていなくて。
というかいきなり扉を開けてきたと思えば、何を意味の分からないことを言ってるんだ?疑問に思っていると、妹は俺と武宮さんを何度か見比べた後、不満そうに溜息を吐いた。
「あら、大丈夫なのね…」
「…大丈夫、って…何が?」
妹が何を言っているのか、分からない。
「…えっと、どうかしたのか?」
「ううん、何でもないよ」
「そ、そうか?」
「うん。大丈夫なら良かった。じゃぁ、私下に居るから」
「……え?もう行くのか?武宮さんと一緒に居なくていいのか?」
「うん、これ以上邪魔すると雷君に怒られちゃいそうだから」
「……怒られる?」
「…おい、」
するとここに来て武宮さんはやっと喋ってくれた。だけど何故かそれは焦りを含んでいるというか、機嫌の悪そうな低い声だった。
「おっと、口が滑っちゃった」
てへ、と自分の頭を叩くと妹はそのまま俺の部屋から出て行った。…い、一体なんだったんだ?
「えっと、…馬鹿な妹でごめんなさい…」
「……いや」
「……」
本当になんだったんだろう。
我が妹ながら考えていることが分からなかった。
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