▼ 2-2
「あ、…お、おはよう、ございます」
慌てたら駄目だ。取り乱したら駄目だ。
普通通りに、平然としていないと。そうしないと妹に変に勘繰られそうだし、俺が武宮さんのことを好きだということを武宮さん本人に気付かれるかもしれない。俺は必死に平然を装いながら、風呂上りでいつも以上に男の色気を醸し出している武宮さんに朝の挨拶をした。
「おはよう…」
すると武宮さんも挨拶を返してくれた。それだけのことなのに凄く嬉しくて、俺の負の感情が少しだけ吹き飛んだ。
だけどまだ心の曇りは全然晴れはしない。昨日俺が「練習」だと言って武宮さんとキスした罪はどう足掻いても拭うことは出来ないし、なかったことには出来ない。
「あ、あのさ、一つ聞いてもいい?」
「どうしたの、お兄ちゃん?」
そして俺は更に自分で自分の首を絞めようとしている。ある事を二人に聞こうとしているのだ。
こんな事を聞いたら妹はもちろんのこと、武宮さんだって気分を害するに違いない。だって俺は恋人同士の二人からしてみれば部外者なのだから。…だけど、気になる。どうしても気になってしまうのだ。俺は武宮さんのことが好きだから。俺は嫌われてしまうのを覚悟して訊ねてみた。
「た、武宮さんは昨日何処で寝たの?」
「…え?」
「もしかして、二人とも一緒の部屋で寝た?」
本当に最低の屑野郎だ。「何てデリカシーのない奴なのだろう」、きっと妹にも武宮さんにもそう思われたに違いない。
二人はまだキスどころか手を繋いですらいないと言っていたが、思いを寄せ合っている男女が一つ屋根の下で何もしていないというのは有り得ないだろう。
やっぱりキス以上のことをしたのかな?不安になっていると、妹から笑われた。
「あはは、お兄ちゃんったら直球だね」
「…いや、ごめん。こんな事聞いて」
「別々の部屋で寝たよ。ね、雷君」
「…ああ」
「……え、本当なのか?」
キョロキョロと二人の顔を見合わせる。すると二人はコクンと縦に頷いた。その事実に何処か安心してしまった兄を許して欲しい。…やっぱり俺は今も変わらず武宮さんのことが好きだから。
「本当の本当よ。こんな可愛い子に触れもしないなんて、雷君勃起不能?」
「…ぼ、ぼっ…き?!」
先程と変わらず妹は可愛く笑う。しかし妹の口から出た言葉はなんともはしたない言葉で、俺は飲んでいた水を噴出してしまった。
「ちょ、お兄ちゃん、汚ーい」
「…わ、悪い、…いや、で、でも、」
俺はチラリと武宮さんの方を見てみた。すると眉間に皺を寄せて不満そうな表情をしている武宮さんと目が合う。
「俺は、…不能者じゃない」
え?な、何で俺を見てそんな事を言うんだ。弁解しておきたいのは妹じゃないのか?…少しムスッとした表情もまた格好いいなとか思いながら、俺は軽く妹の頭を叩く。
「こ、こら、変なことを言うんじゃない。武宮さんに謝りなさい」
「…むー、雷君ごめんね」
「………」
武宮さんやっぱり怒ってしまったんじゃないのか?まだ眉間に皺寄ってるし。…で、でもこの険しい表情も格好いい。だがしかし、男の人にぼ、勃起不能なんて言うとは妹も、…末恐ろしい。俺は何処かで妹の教育を間違ってしまったのだろうか。
prev /
next