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エリーアスが最後に差し出したのは、書簡ではなく両手に乗るほどの四角い布の包みだった。我慢しきれず、クレスツェンツは積み上げられた書類の上でそれを解く。
「本……いや手帳か?」
「あいつの日記帳ですよ、多分」
包まれていた日記帳は二冊。その上にきれいに畳まれた便箋があった。十枚近くありそうだ。
嫌な予感がした。
クレスツェンツは再び日記帳を包み、胸に抱える。
「ありがとう、エリー。早速読む。お前はもうひと仕事あるようだが、それを終えたら必ず休め」
エリーアスが頷くのを見るや否や、報告書の束は侍従に持たせ、クレスツェンツは部屋を出た。
なぜか分からないが、アヒムからの届け物を抱いた腕がじりじりと炙られているような気がした。
最後に交わした言葉すらはっきりと覚えていない。
きっといつものように「また」。
そう言って王城を去るアヒムを送り出したのだろうと思う。
その「また」という言葉がいつになるか知れないこの二年あまり、クレスツェンツはもどかしくてたまらなかった。いくら頻繁に便りがあっても、彼が元気に過ごしていると窺い知ることが出来ても。
施療院に行けばいつでも会えた――そんなころとはまるで違い、彼の存在は遙か遠い。
行けるものなら、すぐにでも飛んで行きたい。
アヒムからの長い長い手紙を読んでいたクレスツェンツは、途中で紙面から顔を上げ呆然と天井を仰いだ。
「王妃さま……?」
長時間、血眼になって便箋を睨んでいた主の異変に気づき、お茶を運んできた侍女が気遣わしげに囁いた。
「根を詰めすぎでいらっしゃいます。どうぞお休み下さい。次の会見の時間にはお呼びいたします」
クレスツェンツのためを思い諫めてくれる彼女の声がぼうっと遠ざかる。
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