dear dear

13

 施療院を通して教会とも密なやり取りがあったクレスツェンツは、最も早い連絡手段として彼らの特権を利用することを教会に提案した。弱者の救済に積極的であろうとする教会はこれを受け入れてくれ、またクレスツェンツの要請以上の物資や人員の手配を行ってくれている。
 動いていないのは、アマリアの城壁の中にいる貴族たちだけだ。
「効き目のある薬が分かったってアヒムは言ってるのに、なんであいつらは手伝いに来ようとしないんだよ!」
「エリー、落ち着くのだ。アヒムらが見つけてくれたのは、症状を抑えられる薬の処方だ。治療法や予防法ではないし、危険がある。誰しもがふたつ返事で飛んで行ったりは出来ないよ」
「でも、王妃さまが派遣してくれる医者や商人たちはちゃんと働いています。みんながみんな南部に縁があるわけじゃない。自分の志で来てくれてるのに、一番知識のある奴らが、なんで」
「わたくしだって行っていない。わたくしも、お前の言うアヒムの学友たちと同じように罵られなければならないな」
「そりゃ、王妃さまは、」
 言葉を詰まらせたエリーアスの拳をそっと握り、クレスツェンツはまなじりを下げて微笑んだ。気の短い青年を宥めるためでもあり、自嘲を隠すためでもあり。
「お前には、またすぐにペシラへ戻ってもらわねばならない。今はゆっくり休んでくれ。本当に顔色が悪いぞ。いくら丈夫なお前でもそろそろ限界のはずだ。そんな状態でペシラへ戻れば真っ先に死神の餌食だ。城内に部屋を用意する。よいな、休みなさい」
「……いえ、導主たちのところへも報告に行かなくてはならないので、城は降ります。それと、アヒムからも手紙を預かってきました」
「村へ行ったのか!? どんな様子だ?」
 冷静になりつつあった思考が、再びかっと熱を帯びた。エリーアスとふたりで熱くなってしまったのでは収拾がつかない。そう思って蓋をしていた感情は、友人の安否に直結する情報を素早く認識して大きく揺れた。
 思わず身を乗り出したクレスツェンツだが、エリーアスは苦い表情で返す。
「直接渡されたんじゃないんです。人伝で……出来るだけ早く届けて欲しいという伝言も一緒に」

- 71 -

PREV LIST NEXT

[しおりをはさむ]


[HOME ]