dear dear

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     * * *

「倒れた!? どうして!? 今どこで治療を受けている!?」
 クレスツェンツは目の前の僧侶が要望通りに買ってきてくれた屋台のパンを囓ろうとしていたが、しれっと告げられた親友の近況に目を剥いた。
 ああ、あいつなら三日前に施療院で倒れて大騒ぎを起こしましたよ、ではない! もっと詳しくとせっつけば、若い僧侶は気怠げに話を続けた。
「風邪をこじらせてたみたいで。高熱と遅れて出てきた咳で死にそうになりながらイシュテン伯爵のお屋敷に引き取られてます。昨日会ってきたけどちゃんとよくなってましたよ。オーラフ様が見舞いがてら診察して薬の処方を出してくれたそうなので。伯爵の若様も医官だし、お任せしておけばすぐ治りますよ」
「その伯爵のほうからもナタリエ様からも何も聞いていないぞ! というか阿呆だあいつは……医者のくせに自分の体調に気づかなかったのか」
「このところいつ寝てるんだっていうくらい施療院に詰めっぱなしで、かつ講義にも休まず出てたらしいですからねぇ。医者の不養生。馬鹿ですよね」
 アヒムと同じ顔で溜息を吐いた若い僧侶――アヒムの従弟のエリーアスは、クレスツェンツに買ってきたのと同じパンをばくばくと囓り始めた。クレスツェンツもそれに倣う。
 中に入っている鶏肉の煮込みは残念ながら冷めているが、施療院の周りの露店でもよく売られていたこのパンは彼女らのお気に入りだった。王城で暮らし始めてからは久しく食べていない。懐かしい味だ。
「感冒をこじらせて死ぬ者も往々にしてあるというのに……まったくもう、心配させないで欲しい。わたくしはまだ王城から出してもらえないのだ。施療院へ行くと誤魔化して見舞いに行くことも出来ぬ」
「手紙、アヒムと施療院宛てのなら運びますよ」
「当たり前だ。わたくしが手紙を書き終わるまで城からは出さん」
 はいはい、と適当な相槌を打つエリーアスはあっという間にパンを食べ終えて、行儀よく貴族の作法で茶をすすっている。クレスツェンツも侍女長の冷たい視線――王妃ともあろう者が手掴みで、それも屋台の売り物を食べているのが許せないらしい――を無視しながら急いで昼食代わりパンを口に詰め込み、王家仕様の最高級の便箋とペンをテーブルに持ってくるよう命じた。

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