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そして彼らには政治的な協力関係があると同時に、伴侶としての信頼や愛情もしっかりと育まれていった。
世継ぎのいない王家が御子誕生の報せで沸くのもすぐ……と人々は期待したのだが、こちらは少し時間がかかった。
王妃が最初で最後の王子を産んだのは、輿入れから五年と少しが経ってのことだった。
* * *
この吉報を人々がどれほど待ちわびていたかは想像に難くない。
王子誕生の報せは瞬く間に王国全土を駆けめぐり、貴族、僧侶、庶民でさえ王城へ参賀することを許され、王都アマリアは祝辞と熱狂の渦に呑まれていた。
産褥の疲れなどなんのその。クレスツェンツは王子を抱いて人々の参賀を積極的に受け入れた。
これまで自分のやりたい仕事に打ち込みすぎていたなという反省と、ようやく王妃としての一番大きな役目を果たしたという誇らしい気持ち、そして何より、初めて抱いた自分の息子という存在がものすごく可愛かったので、皆に見せたかったのだ。
まだ休養を優先するべきところ、クレスツェンツはいつまでも祝いに訪れる人々との面会を続けようとするので、この日も母子の身体を案じた侍女長が「次を最後に」と言って訪問者たちを帰してしまっていた。
なんだつまらない。けれど、そういえば疲れたな。クヴェンもすっかり寝入っている。
揺り籠の中で口をむにゃむにゃさせながら眠る息子の頬をつつけば、こみ上げる愛しさにクレスツェンツの口許も一緒にむずむずした。
「では次の面会者を、」
「呼ぶがよい」
まだまだ張り切った様子のクレスツェンツに呆れながらも、侍女長は合図の鈴を振った。
繋ぎの間に通された面会者たちの脚が、真っ赤な天鵞絨(ビロード)のカーテンの向こうに見える。
膝下までを隠す長い黒のコート……いや、あれは僧侶の法衣だ。ふたりいる。施療院の関係者かな。
クレスツェンツは自然と笑みを浮かべ、読み上げられる彼らの名前に耳を澄ました。
「アマリア施療院長、オーラフ・グラウン導師様――」
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