dear dear

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 何を求めた問いだったのだろう。怪訝に思いながら王の横顔を見上げると、その唇は柔らかく笑んでいる。どきりとして、それより上は確かめられない。
「よいところだ。ここでなら、民は安んじて療養に専念出来よう」
 しみじみと呟く、その声は優しい。
 きっと、その言葉が、彼が施療院で目にしたものすべてを総括して下した評価なのだろう。
 王は何かを決めた。そんな確信がじわじわと湧き上がってくる。
「本日は、おいでくださりありがとうございました」
 涙で震えそうになる喉をどうにか抑え、クレスツェンツは中庭を見つめたまま言った。
 わがままを言ったとか、手順を踏まずに無礼なお願いをしたとか、詫びねばならないことはたくさんある気がしたが、しかし一番伝えたかったのは感謝だった。
 余計な言葉は王も望んでいないようで、彼は頷く気配をかすかに残し、ゆるやかに上着の裾を翻して踵を返す。
「無礼を重ねることは承知の上でお伺いしたいのですが……! 先日のヘルツォーク女子爵とオーラフ導師の提案を、陛下はお受け下さると思ってよろしいでしょうか」
 足を止めた王は肩越しにクレスツェンツを振り返る。その瞳はやはり明るく澄んでいた。久しぶりに対面したペリドットのような瞳は、驚いたあと、にやりと笑ったように見えた。
「ここで言質を取れるとでも思ったか」
「そういうつもりではありませんが……恐らくわたくしは、このあと兄にものすごく怒られるので……怒られる甲斐がある成果か、またはその見込みを手に出来れば元気が出るんだけどなぁ、なんて……」
 それなりに緊張していたので、言葉遣いがまずいことになった。クレスツェンツは青ざめたが、王は目を細めて、また笑ったのだろうか。
「王命は然るべき形を持つものだ。待っていなさい」
「……」
 安心しきれない答えではあったが、王の表情を見る限り、期待していてもよさそうだ。
「分かりました。あとひとつ、お訊きしたいことがございます」
「なんだ」
 施療院に対する王の評価は、決して低くない。だから彼の返答を待とう。
 しかしもうひとつのこの問いは、周りにほかの誰がいても尋ねられないことだった。
 わななきそうになる唇を一度噛みしめ、クレスツェンツは大きく息を吸った。

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