dear dear

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 そろそろ王がこっちへ来るな、と思いつつ、クレスツェンツは昼食の配膳を手伝っていた。
 本当は、テオバルトがクレスツェンツの外出を阻もうとしていたのだが、「来い」と言った者が当日いないのもおかしいというナタリエの説得により、彼女は無事屋敷を脱出したのである。
 アヒムは、今日はいない。いや、午後になればいつものように顔を見せてくれるのだろうが、この時間は大学院で講義を受けている。
 来てくれたら心強いなぁ、とクレスツェンツは甘えてみたのだが、アヒムの返事は終始「講義のほうが大事」だった。
 だったらせめて、よい報告をしたいものだ。

 病が伝染(うつ)らないようにと、王が視察する場所は慎重に選ばれていた。病室には入らず、部屋の入り口から中の様子を窺うだけだし、隔離病棟には一切近づかない。
 大部屋で患者たちのもとから空の食器を下げていたクレスツェンツは、そんな王の姿を見かけたが、兄が王の隣につきっきりだったので傍へ近づくことは避けた。代わりにクレスツェンツがいることに気づいた王に向かって、目一杯の感謝を込め臣下の礼をとる。
 王はひとつも表情を変えることなく行ってしまったが、きっとクレスツェンツの謝意は受け取ってくれただろう。
 病室の観察はほどほどに、王は僧侶たちや雑務を手伝いに来ている市民たちの話を聞いてから帰るそうだ。クレスツェンツも王と話す機会が欲しい……と思っていたら、その好機は不意に訪れた。
 昼食の片づけを終え、患者たちに必要な薬も服用させ、その記録もしっかり終えたころ。
 施療院の中の慌ただしさが鎮まっている気がして、クレスツェンツはオーラフを捜していた。
 王は早々に帰ってしまったのかも知れない。話ができなかったのは残念だなと思いつつ、先方とどんな遣り取りをしたのかオーラフに聞いておきたかったのだ。
 しかしくだんの僧侶よりも先に王の姿を見つけた。
 王の傍らにはやはりテオバルトがひっついている。ふたりは中庭に面した窓辺で何やらぼそぼそと話し込んでおり、いかにも密談中といったところだ。

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