dear dear

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 そんな願いをこめながら触っていると、乾燥したなにがしかの葉っぱもだんだん愛しくなってくるものだ。しかし、
(さすがに、王妃になったらこんな仕事はさせてもらえないだろうな)
 王の妻に。王族に。
 その話が目の前に差し迫っていると思い知ったあの日から、クレスツェンツの中に点在していたものが急速に線を結び始めた。
 まだ巧く言葉にならない。けれど、先日のアヒムの言葉が、オーラフの野心が、鍵になっていることは確かだ。
 彼女はふと窓の外を見遣る。施療院がいくつも戴く尖った屋根の合間に、ひとつの丘をまるごと城壁で囲った王城のてっぺんが見えた。小さくなってはためく王家の旗はアマリア中から見ることが出来るのだ。
 そう遠くないうちに、あそこで暮らすことになる。
 旗は、王家の存在は、どこからでも見える。けれど、施療院からは遠くなるな。
「お城がどうかしましたか?」
「え? いや、ほら、もうすぐ陛下がいらっしゃるなって」
 クレスツェンツの声はちょっとうわずったが、薬草の補充に真剣なアヒムはたいして気にならなかったようだ。彼は手元に視線を戻すと、クレスツェンツと同じように、丁寧に丁寧に、乾いた薬草を手ですくっては箱に移している。
「ああ、十日後でしたっけ。まさか国王陛下ご自身が来て下さるなんて……よかったですね。でも、本当に『見に来て下さい』っておっしゃったんですね……」
「『言ってよかった』と励ましてくれたやつの台詞がそれか!?」
「相手が相手だからすごいなあって、今なら思います」
「……あのときは、人ごとだとでも思っていたわけか」
 まあね、なんて言ってアヒムが肩をすくめるものだから、クレスツェンツは素直に励まされたあの日の自分に「騙されるなよ!」と言ってやりたくなった。

     * * *

 そして十日後。宣言通り、王はグレディ大教会堂へ行幸した。
 名門貴族の殿様がお忍びで、という状況設定があったらしいが、大勢の騎士が馬車を守っているわ、大導主が迎えに出るわで、明らかに様子がおかしい。市民の参詣者は馬車を取り巻く騎士たちの物々しさを恐れてそそくさと帰り、いつもは賑やかな声をあげて門前の広場で遊んでいる子供たちの姿もない。

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