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ここは人が自分の命とともに闘う場所だ。哀れみや好奇の目はいらない。寄り添うつもりのない者が、ここを踏み荒らすのは我慢出来ない。
それでも、今日のところはオーラフに任せようと思った。
今は友人の手を握っていてやることのほうが大事だ。じきに静かになる。そう自分に言い聞かせて、クレスツェンツは横たわる娘の頬を撫でる。
少年たちは部屋を去ることになったらしい。まとまって立ち去る足音にほっとしつつ、彼女は帳の隙間から彼らの様子を窺った。
そして不思議な視線を感じ、どきりとして息を止める。
一人の少年が静かにこちらを見つめていたのだ。
黒髪の合間から覗く瞳は鮮やかな緑で、その色には、哀れみも好奇も浮かんでいなかった。
ただ、見守られて逝く命を悼んでいる。穏やかに、寂しそうに。
死に逝こうとする娘のことを知っているはずもないのに、なぜそんな顔をしてくれるのだろう。クレスツェンツは不思議に思った。
不思議に思ったが、嬉しかった。彼が友人の命に寄り添う心を示してくれたようで。
やがてその少年は、仲間に紛れて病室を出て行った。
彼らがやってくる前の静寂が戻る。
それから一時も過ぎた頃。うららかな午後の陽射しと祈りに包まれて、若い娘の命は静かに幕を閉じた。
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