dear dear

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 こうして隣を歩ける時間はどれくらい残っているのだろうか。そしてやがて分かれる道の先、それでも彼を感じていられる方法はないだろうか。
「結局、わたくしの願いはそれなのだな……」
 施療院の中にある優しい営みが好きだ。ずっと関わっていたいと思う。その優しさを、みんなに分けてあげたいと思う。
 そしてわずかでいい、アヒムの志と自分の思いを繋げる何かが欲しい。
 小さな呟きを拾ったアヒムが首を傾げる。クレスツェンツはわざと肩がぶつかるほどに彼との距離を詰め、巨大な尖塔を擁するグレディ大教会堂の聖堂を眺めながら訊ねた。
「アヒムは、オーラフ様が医道を修める僧侶になった理由を知っているか?」
「理由ですか? アマリアで養成した僧医を、地方の施療院へ派遣する仕組みを作りたいとおっしゃっているのを聞いたことはありますけど……オーラフ様の故郷も、医療の担い手にはいつも困っていたからって」
「ふーん」
 あの若い僧侶にそんな野心があったとは知らなかった。彼とは長い付き合いだが、クレスツェンツは初めて聞いた話だった。
 まったく、男というのはひとりで志を燃やしているものなのだろうか。何が出来るかは分からないが、言ってくれればいくらでも協力するのに。
 唇を尖らせつつ、クレスツェンツは更にアヒムに問いかける。
「オーラフ様は、お前が医師を志すのも自分と同じような理由ではないかとおっしゃっていたが、そうなのか?」
 そしてちらりと友人の横顔を窺う。その瞬間、見間違いかと思うほどかすかにアヒムの頬が引き攣った。
「ずるい訊き方ですね」
「ごめん。でも気になっていた。訊いてみたかった」
 少し前までのしょぼくれたクレスツェンツなら、アヒムの言葉を拒否と受け取って大人しく引き下がっただろう。しかし今は無理だ。
 欲しいと、知りたいと、自分の願いをはっきりさせてしまった今は。
 アヒムは苦笑し、なかなか次の言葉をくれなかった。それでもクレスツェンツは待った。






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