dear dear

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 そう虚空に問いかけて、自分の溜息で応える。
 ふたりが釣り合う≠ゥどうかなど誰も気にしていない。
 歳若いクレスツェンツが妃候補に選ばれたのは世継ぎのいない王の子を産むためであって、エルツェ公爵家の娘であるクレスツェンツが妃候補に選ばれたのは、シュライエル侯爵、ゼーリガー侯爵ら武門派貴族の勢力増長を牽制するために王家と王家の血統を結びつける目的があったからだ。
 クレスツェンツが終始むすっとしているうちに、昼食会は終わった。彼女にとって幸いしたのは、その終わりがけに兄がやむを得ず中座したことだった。
 何があったのかは知らないが好都合だ。どこかに沈みかけていた思考を瞬時に呼び覚まし、クレスツェンツはナタリエ、そしてオーラフの陰に紛れ込んで別れの挨拶を交わすべく王に近づいた。
 テーブル越しに向かい合うより少し近くへ。連れたちの肩と肩の間から王を見上げる。
 アヒムの黒髪も羨ましいと思ったが、王の淡い金色の髪も癖がなくて真っ直ぐで、陽に当たると蜂蜜の糸のように透明に輝いてきれいだ。
 愛想よく施療院のことを宣伝しようと思っていたクレスツェンツだったが、またしても劣等感を刺激されるものを見つけてしまってついつい眉間に皺が寄った。
 なんなんだ二人して、男のくせに、そんな綺麗な髪がいるのか!? 今日も背中でふわふわさせている髪を一房手に取り、彼女は唇を尖らせる。
 王の視線に気づいたのは、女子爵とオーラフ声が不意に途切れ、不思議に思ったクレスツェンツが顔を上げたからだ。
 (やっと)目が合った! 真正面から、互いの姿を映した鏡のように瞳が向き合う。
 王の瞳の明るさに魅せられ、クレスツェンツは視線をそらせないままじわじわと頬を染めた。
 王の瞳の淡い緑は、クレスツェンツの中にも流れる王家の血の色。クレスツェンツの瞳の緑は代を下って灰色に濁ってしまったが、王の瞳はペリドットそのもののようだった。アヒムの鮮やかなエメラルドとは、また違う色。
 ふっと、王の口許が弛んだ気がした。けれどそれ以上にクレスツェンツへ関心を示すわけでもなく、ヘルツォーク女子爵とオーラフ導師の来訪を労い終えた彼は踵を返そうとする。
「陛下」
 クレスツェンツが呼び止めれば、無視はされなかった。振り返ってくれた王のきれいな瞳を見上げる。

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