dear dear

6

U


「あなたはよく喋りますが、そういうことは意外と口にしませんよね」
 ぐずぐずと鼻をすすりながら、クレスツェンツは胸にわだかまっていたものを吐き出した。
 アヒムのせいだと聞こえなくもない主張だったが、彼はクレスツェンツの言葉を否定せず、かといって相槌を打つわけでもなく、黙って話を聞いていた。
 そして話し終えたとき最初に返ってきたのがその言葉だった。
「そういう?」
「悩むと殻に籠もるというか。自分の問題は、人には相談しない」
「自分でどうにかするしかないと思って……」
「突然泣いて出て行かれるよりは、愚痴をこぼしてくれたほうがましですけどね」
 非難がましくアヒムは唸る。そしてクレスツェンツからぷいと顔を背けた。怒っているらしい。
「もしかして、お前が泣かせたんだろうとか言われたか?」
「言われました」
 即答。それはさぞ不愉快だったろう。
「う。う……それは、すまなかった」
 クレスツェンツは肩を竦めながら、アヒムからちょっとだけ距離をおいた。
 彼の名誉を回復するために、あとであの場にいた僧侶を誰かひとりでも捕まえて自分の情けない事情を説明せねばなるまい。
 それにも落ち込むが、もっとクレスツェンツを悲しくさせたのは、自分が打ち明けた悩みに対してアヒムが何も言ってくれないことだった。
 その程度のこと、とでも思われているのだろうか。いずれ王家へ嫁ぐクレスツェンツが施療院を離れるのは当然のことだとか。
(そうかも知れないな……)
「陛下との縁談を断ろうか……」
「なぜそういう話になるんです」
 アヒムは低く呟いたクレスツェンツを目を眇めて見てくる。驚くわけでも慌てるわけでもない、ただ不審そうな視線で。
「だって、そうすれば今から医官を目指すことだって出来るじゃないか。女の医官だっているのだぞ。ヘルツォーク伯爵家のナタリエ様は官職と一緒に爵位も賜って王城に勤めているし、医師にはならなくても看護や薬の管理をする女官の仕事もあるし……」

- 21 -

PREV LIST NEXT

[しおりをはさむ]


[HOME ]