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すん、と鼻をすすり、目をつむる。土の甘い匂いがクレスツェンツを慰めるように包み込んでくれた。
しばらくここでじっとしていよう。
風の音と、離れたところで行き来する人々の気配だけを感じているのは心地がいい。無心になれる。
涙が消えれば、またもとのように笑って皆の前へ出て行ける。
泣いているのは格好悪いし、皆に心配をかけてしまう。
だから悲しくなることを考えるのはよそう。
どれほどそうしてうずくまっていたのだろうか。
柔らかな芝草を踏みしめる音を聞き、彼女は少しだけ顔を上げた。自分の足許に濃い影が落ちていることに気づき、恐る恐る視線を上げていくと。
この上なく渋い顔をしたアヒムが、あと二歩の距離をあけて立っている。
「何をしているんですか」
すぐには追って来なかったが、アヒムはクレスツェンツを捜していたらしい。
上手く花に埋もれていたつもりなのによく見つけたものだ。あちこち見てまわらないとここまでたどり着かないはずだ。
そう思うと嬉しかったが、腕を組んで眉をひそめ、こちらを見下ろしてくる彼の表情はクレスツェンツを見つけた安堵よりも呆れや不快感のほうが勝っていた。
「うるさい、あっちに行け」
そんな顔をするくらいなら、わざわざ探してくれなくてもいい。
クレスツェンツは再び膝頭に顔を埋め、苛立ちに任せてそう言った。
ちょっと後悔したのも束の間、アヒムの足音が動く。それもクレスツェンツが命じた通りに遠ざかって行ってしまう。
しまった、怒らせた。
「アヒム……っ」
まさか本当に彼が立ち去ってしまうとは思わなかったので、クレスツェンツは慌てて立ち上がる。
目眩(めまい)がしそうなほど視界が明るくなり、世界が真っ白に染まる。何度か目を瞬かせて視力を取り戻した彼女は、少し離れた花壇の縁に座ってむすっと唇を引き結んでいる友人の姿を見つけた。
「う、ご、ごめ――」
ほっとしながら謝ろうとして、言い終えられないうちに再び大きな涙が眦(まなじり)から流れ落ちた。急いでぬぐうが、雫はあとからあとからこぼれてくる。
アヒムは大きな溜息をつくと、自分の隣を指し示した。
「そんなに暑いところにいなくたっていいでしょう」
庭に植わった胡桃(くるみ)の樹が枝を伸ばし、彼の座っている場所に淡い影を落としている。
「うん、うん」
クレスツェンツは涙で顔を濡らしながらアヒムの隣に座り、肩がくっつくほど彼に寄り添って嗚咽を漏らした。
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