dear dear

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 悔しい。
 それと恨めしさを込めて、天秤の向こうにいるアヒムをねっとり絡みつくような視線で見つめ続ける。
 医薬の詳しい話をしてみたくても、クレスツェンツがアヒムと同じ勉強を出来るはずがない。彼は王家が選び抜いた教師から薬学を学んでいるが、一方のクレスツェンツは、施療院にいないときは姫君業で手一杯。辞書や辞典を繰(く)りながら専門書を読んでいる暇などなかった。
 だから深い話では相手にされないなんて悔しいにもほどがある。
 けれどそんな気持ちをどう伝えていいのか分からず、クレスツェンツはアヒムの顔を見ながら考えることにしたのだった。
 その視線がいよいよ鬱陶しくなたのか、アヒムは嘆息しながら薬の瓶と匙を机の上に置いた。
「何かご用ですか」
「うん――終わったのか?」
「まだです。分けて包まないと」
「手伝いたい」
「どうぞ」
 アヒムは薬包になる紙をクレスツェンツの前に差し出してえ笑う。
 意表を突かれるほど朗らかな笑みだ。生真面目そうに見える彼がこうして笑うと驚く者は多い。
 そして、このごろアヒムはこういう表情を見せることが増えた。都での暮らしに馴染んできたおかげで余裕も出来たのだろう。
「丸くなったなぁ」
「丸めるんじゃなくて、畳むんですよ」
「分かっている! えーと、擦り切り一杯ずつ?」
「そうです、お願いします」
 今ほどアヒムが量って混ぜた薬を薬匙で掬(すく)い、正方形の紙に包んでは折り畳んで三角形にしていく。二人は単調な作業を前にしばらく無言になった。
 ちらりと視線をあげ、黙々と薬包を折るアヒムの様子を窺ってみる。
 長い指が規則正しい調子で紙を回し、押さえたりひっくり返したりしていく様子は見とれてしまうほどきれいだった。

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