dear dear

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「誰も彼も仕事熱心で、困るなまったく……」
 医官の後ろから顔を覗かせた兄は、妹の軽口に安心した様子ですぐに引き下がった。続いて寝台の傍へやって来たのはオーラフと義姉だ。
「わたくしも夫の意見に賛成です。いったいどうして、こうなるまで黙っておいでなのですか。いいえ、王妃さまのご不例に気づかなかった医官にも非がございます。このまま治療を任せるのが不安ですわ。ヘルツォーク女子爵をペシラから呼び戻し、王妃さまの侍医に任命すべきです。それまでは施療院から僧医を派遣していただくのもひとつの手かと……いかがでしょうか、院長様」
 義姉の口調は淡々としていたが、ひと息にまくし立てるその様子から、彼女が怒りに怒っていることが分かる。水を向けられたオーラフは苦笑しているだけで返事も出来ないし、クレスツェンツの脈を計り終えた医官は恐々としながら公爵夫人に場所を譲るように後ろへさがった。
「そう仰らないでください義姉上。医官たちはきちんとわたくしを診てくれていましたよ。夏ばてがあとを引いているのだろうと、彼らの診断に余計な意見を述べていたのはわたくしです」
「医師でもない王妃さまの意見を諾々と呑むなど、専門家としての自覚も矜持も足りない証拠ではありませんか」
 クレスツェンツが医官を庇おうとしてもまったく無駄だ。
「そういうことならば仕方がありません、ヘルミーネ様。王妃さまの言葉とあらば臣下は頷くほかありませんから……。しかし、一日や二日でこうはなりません。ずっと以前からお身体に変調があったはず」
 苦笑していたオーラフは静かに目を伏せ、黒い法衣の裾をさばいて寝台の傍に膝をついた。
 横たわるクレスツェンツと視線の高さを合わせ、施療院に出入りし始めたころから彼女が兄のように慕ってきた僧侶は目を潤ませた。
「たびたび施療院にもおいでくださっていたのに、王妃さまのお加減に気がつけなかったことが口惜しくてなりません。そしてお手伝いすると言いながら、施療院と他方面への交渉は王妃さまのお力に頼り切っていたことを今日思い知りました。ご自分が政(まつりごと)の場から離れるわけにはいかないとお思いだったのですね。ですからお倒れになるまで、こうして」

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