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薄暗い廊下の床を汚したのは、朱の絵の具のような鮮やかな血。
クレスツェンツは驚驚かなかった。しかし、ドレスや床に流れた血は少ないとはいえない。すうっと視界が狭くなっていく。
「王妃さま!!」
耳許でエリュゼが悲鳴を上げ、血溜まりの中に倒れ込もうとしたクレスツェンツの身体を支えてくれた。
咳き込むほどに血が喉へ絡み、クレスツェンツを抱きかかえるエリュゼの腕や胸元に赤いしずくが飛び散ってしまう。
汚れるから離れなさいと命令することも出来ない。いくら口を開けても肺に空気が入ってこないのだ。
咎めるように首筋にまとわりつく感触があった。
クレスツェンツの体温で温かくなった細い金の鎖。その先についた金の二つの星。
倒れるまで頑張ったところで、きっとアヒムには叱られるだけだろうな。彼は堪えきれなくなる前に打ち明けてくれと言っていたから。
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