dear dear

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「どうぞ、陛下。この一年、陛下がお健やかに過ごされますように。佳(よ)いことがたくさんありますように」
 晩餐の間へ入る前に、クレスツェンツは夫に贈りものを手渡した。先日からユニカに教えてもらって作ってきたエメラルドの髪留めだ。
 特別な箱には入れず、じかに贈りものを手渡すのが夫婦の間の習わしだったので、受け取った相手の反応はすぐさま分かる。夫は怪訝そうな顔をした。
「なんです、そのお顔は」
「いや……」
 職人が作ったにしては垢抜けない意匠で、細かな作業が不得意な妻が作ったにしてはそれなりに格好がついている――そう言いたげな表情だ。
「そなたが作ったのか」
「そんなに不思議ですか? わたくしが手芸をするのはそんなに不思議ですか? 信じられませんか?」
 わざと目を吊り上げて詰め寄れば、うんと年上の夫は子どものように狼狽えて首を振った。
 その可愛い困り顔を見ることが出来て満足したクレスツェンツは、にっこりと笑って夫の手から髪留めを取り上げる。そして彼の髪を縛っていた黒いリボンを外し、贈ったばかりの髪留めに付け替えた。
 夫の髪も真っ直ぐで滑らかで、蜜を縒(よ)ったような淡い金色がとても美しい。
 無愛想な印象を与える黒いリボンではなく、こうして宝石の髪留めを使うと夫の印象は華やぐのに、彼は自分で宝石を選ぼうとはしない。
「よかった、お似合いです」
「……ありがとう」
 照れくさそうに口許をほころばせる夫に腕を絡ませると、少し高いところからずいぶん控えめなお礼の言葉が降ってきた。クレスツェンツにだけ聞こえるような声だ。
 人目がある場所では泰然と構えてることが夫の仕事のひとつなので、妻からの手作りの贈りものがどんなに嬉しくても、彼の反応はこんなものである。
 それを分かっている今では、この素っ気なさを装った感謝の仕方が大変愛おしい。
 こんな他愛のない会話だけを重ねて、ただ仲睦まじい夫婦でいられたらいいのになと思う。

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