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「ユニカのことは、クヴェンと同じようにわたくしが養育する。アヒムの代わりに、わたくしを手伝って欲しいのだ」
クレスツェンツは、襟をゆるめて金のペンダントを取り出した。ひとつ星に、十二芒星が連なる僧侶の証。アヒムの遺体から外してきたものだった。
「見ていよ、アヒム。お前の分まで、お前の娘がわたくしたちの夢を育ててくれよう」
こののち、十日あまり経ったころ、疫病は明らかに収束の気配を見せた。
クレスツェンツの指揮のもと患者数を把握する体制が整った矢先に、新たな罹患者の数が極端に減っていったのである。
それを機にクレスツェンツはジルダン領邦へも入邦し、長く疫病の猛威にさらされて弱った人々の支援を始めた。
ひと月後には新たな罹患者も確認されなくなり、王妃クレスツェンツがペシラより「疫病収束」の報せを王都に送る。
そして王命により帰還する彼女の傍らには、幼い娘の姿があった。
癒やしの力を持ち、ブレイ村を灼き滅ぼした娘を王妃がアマリアへ連れ帰った――という噂は、瞬く間に広がっていく。
娘の存在が再び表舞台へ躍り出てきたのは、それから八年後のことだ。
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