dear dear

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「お前の秘密を知っていたからには、わたくしもひとつ秘密を打ち明けよう。わたくしはな、今でもアヒムのことを好いている。友人以上の想いで」
 唖然とするエリーアスを小突き、クレスツェンツはくすりと笑った。
「誰にも明かすでないぞ」
「そ、それは、もちろん……でも……」
「アヒムは知らない。きっとわたくしのことは最後まで友≠セったのだ」
 アヒムに出会う前から、クレスツェンツは国王の後妻になることを決められていた。だから思いを伝えなかったし、伝えるつもりもなかった。
 それを今更、ほんの少しだけ後悔している。
 けじめをつけよう、とはっきり思ったのは、正式に王家から婚姻を申し込まれたとき。寝ているアヒムにキスをした。それで満足したつもりだった。
 そして一緒になった夫とは十八も歳が離れていたが、彼はクレスツェンツを小娘と侮ることなく共同統治者の椅子に座らせ、政治においても夫婦関係においても色々と導いてくれる男だった。
 口数は少ないし不機嫌そうな顔をしていることが多いが、あれで家族の情には大変篤い。恐らく、前妻を亡くした悲しみが彼の心の底にはあるのだろう。
 クレスツェンツはそんな夫を尊敬したし、愛している。だから遅ればせながらも子どもも授かった。
 けれど特別な友人は、その間もクレスツェンツの心の片隅に、本当に特別な£n位を占め続けていたようだ。
 それに気づいたのは、彼に息子を抱いて貰ったときだった。
 祝福されて、とても嬉しかった。しかし赤子を抱く彼の姿を見て、その腕の中にいる息子が、彼との間に生まれた息子である道もあったのかなと、ふと思った。
 あるいは彼が故郷に帰ったあと、クレスツェンツ以外の女との間にこうして子どもをもうけ、抱くこともあるのかなと。そのときに胸を焦がしたのは、紛れもなく嫉妬だった。
 ああやっぱり、お前は特別なんだから。
 伝えるつもりは、彼が死んだ今でもない。後悔していても、やはり伝えるつもりはないのだ。
 だけど封じておくことも出来なかった。現に、こうして彼の許へ駆けつけてしまうのだから。
 そして預かった彼の形見の娘。

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