dear dear

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 今日、彼らの師に頼み、ブレイ村とアヒムのために葬祭を執り行ってもらった。だからといって、まだ気持ちに区切りはつかない。
 クレスツェンツとて、考える。もっと早く、あと十日、いや、ひと月、アヒムから最後の手紙が届く前に貴族院や夫を説得し、ペシラへ来ていればと。
 エリーアスの隣に並ぶ。顔は見られたくないだろうから、クレスツェンツも一緒に夜空を見上げた。
 まだ蒸し暑い夜が続き、疫病の悪夢に終わりは見えない。
「エリー、ちょっと聴いて欲しい。わたくしは、ユニカを王都へ連れて帰ろうと思う」
「え?」
「わたくし自身が帰還を許されるか危ういところだが、とにかくこの先は、ユニカをわたくしの傍に置こうと思う」
「どういうことですか? ユニカはアヒムが正式に娘にして、グラウンの一族に数えられているんですよ。導主たちの許しがなきゃ……」
「アヒムの最期の手紙には、『ユニカをわたくしに預ける』と書いてある。親の遺言だ。無下には出来まい」
 涙を流し腫れた目を隠すことも忘れて、エリーアスは怪訝そうにクレスツェンツを見下ろした。
 彼女は続ける。
「わたくしは、やはり施療院の体制を一刻も早く盤石なものにせねばならないと確信した。こういう疫病は今後も我々を苦しめるだろう。しかし手を尽くすだけ命は助かる。対応が早ければ病の広がりも押さえられる。薬や医術の知識が広く開放され研かれることで未然に防げる病もあるはずなのだ。そういう活動を総括する機関として施療院を使いたい。アヒムやオーラフ様とは常々話していたのだが――この考えを国中に浸透させるには時間がかかるだろう。だから……」
 わたくしには後継者が必要なのだ。
 遠く果ての星を睨んでいたクレスツェンツは、ぎゅっと目を閉じて呟いた。エリーアスには聞き取れない小さな声で。
 聞こえなかった言葉を問おうとしたエリーアスに向かって、クレスツェンツはにたりと不敵な笑みを浮かべた。
「お前、キルルというアヒムの幼馴染みを好いていたそうだな」
「――は!? なんで知って……!」

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