天槍アネクドート
落ち葉かき(1)
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 長い箒を上手く使えていると、少し大人になった気がする。
 キルルが手際よく家の中の埃を掃いている姿を真似しつつ、ユニカはかさかさと騒がしく逃げ回る落ち葉を集めていた。
 季節は冬の少し手前。村の北側を覆う広葉樹の森が黄赤く染まり、風が吹くたび切なげに木の葉の衣を少しずつ脱いでいくような頃。空は抜けるように高く、絶好のお掃除日和だった。
 ユニカはうきうきしながら落ち葉かきをしていたが、一緒に仕事を頼まれたエリーアスは違うらしい。
 落ち葉の小山を築いてユニカが一息つくと、少し離れたところではエリーアスが大きな空の植木鉢をひっくり返して椅子代わりにし、箒を邪魔そうに弄んでいた。
「エリー、だめよ。導師様とキルルにお願いされたじゃない」
「……考えてみろよユニカ、アヒムのうちの後ろには何がある?」
「お薬の畑と納屋があるわ」
「その向こうにもっとでかいものがあるだろ、しかも、俺たちの仕事を終わらせてくれないものが」
 ユニカは養父と二人で住むには少々大きい導師の家を振り返った。この家は村の中では北の端にあり、かつての村があったという森にくっつくように建てられていた。今はきれいな色に染まった、落ち葉を降らせる森。
 森の中ではらはらと舞い落ちる木の葉を見遣り、ユニカはエリーアスの言いたいことをようやく理解した。
「でも、私がやったところはきれいになったわ」
 それでも、ユニカはめげずに自分が掃き清めた玄関の周辺を指さした。
「明日になったらどうせまた落ち葉だらけだよ。ということは、今日やっても意味がない」
 しかし、エリーアスもめげずに怠けようとする。
「じゃあ、どうして導師様はわたしたちに掃除をお願いしたの?」
「アヒムはきれい好きだからな」
「わたしもきれいな方がいいと思う」
「俺はやっても無駄なことはやらなくていいと思うね」
「無駄≠カゃないから導師様はわたしたちにお掃除してって言ったのよ」
「明日元に戻るのにか? 本当に無駄じゃない≠ゥ?」
 なんだか今日のエリーアスは強情で、へりくつを並べユニカのことを黙らせようとしてくる。いつもならユニカが叱れば気怠そうにしながらも「はいはい」と返事をして仕事に戻ってくれるのに。
 エリーアスの思惑通り、ユニカは黙らざるを得なくなった。どうして無駄じゃない≠フか分からず、それ以上反論できなかったのだ。
 せめて箒を持ってエリーアスを睨みつけるが、若者はまったく大人げないことに落ち葉かきをやろうとしない。多分、今朝は養父に無理矢理起こされたせいだ。それでずっとむくれているのだ。
「ったく、俺はアヒムんちの家事を手伝いに来てるわけじゃないっての」
 昨夕、日暮れ間際になってブレイ村へやって来たエリーアスは、疲れていたのか食事もそこそこに布団へもぐりこんで寝てしまった。それは時々あることなので、養父はエリーアスの部屋にそっと夜食を運び入れ、いつも通り就寝した。

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