天槍アネクドート
さいしょの贈りもの(16)
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 テオバルトの期待通り天井画に見惚れているヘルミーネの手を引き、庭に面した南側の扉の傍へ連れて行く。
「さすがに川は作れなかったけど、ほら」
 硝子のはまった扉を開けると、庭にしつらえられていた噴水が正面に見えた。流れ落ちる水の音が聞こえてくる。
 大河の流れには及ばないにしても、ヘルミーネを安らげてくれる水の子守歌。
 鍵を握りしめながら噴水を見つめていた彼女がその視線をこちらへ向けてくれるのを待ってから、テオバルトは身を屈めて口づけた。
「気に入ったかな」
「――はい」
 返事は短く、今度はヘルミーネの方から唇を押しつけてくる。
「わたくしのお城には、一番に旦那様をご招待しますわ」
 潤んだ目で優雅に微笑まれ、テオバルトも満足げに目を細めた。





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