さいしょの贈りもの(8)
では、ヘルミーネはどうなのか。
彼女は何が得意で、何が好きで、あるいは何が苦手なのか、テオバルトにはとんと分からない。
湿った手拭いを召使いに預けた彼女の背中を見つめると、テオバルトはまた王に叱られているような気になった。
***
滞在先は王都アマリアから馬車で七日のところにある山裾の田舎町だった。そのあたりに別荘を構えている貴族は多い。美しい高原の一角にある静かな土地で、賑わしい城壁の中の街で暮らすテオバルトのような貴族にとっては自然豊かな恰好の保養地だったからだ。
旅の初日。馬車の中での夫婦の会話はやはり少なかった。ヘルミーネはテオバルトが声をかけない限り、景色が流れていく窓を見ている。その様子がいつになくぼんやりしているようだったのが気になった。しかし、
「具合でも悪いのかい?」
「いいえ」
話はそれで終わった。
そっけない。テオバルトに話しかけられるのが嫌なのかと邪推してしまいそうになるが、それはなんとか堪えた。
それでも狭い馬車の中でそれ以上「はい」とか「いいえ」で話を断ち切られるのは耐えられない。
王が言う通りテオバルトは公爵家の御曹司として周りからちやほやされて育ったので、本気で冷たくされることに慣れていなかった。
ただ、いつまでもそうは言っていられまい。ヘルミーネとはこれからも長い時間を過ごす予定だ。そのためになんとなくすれ違ったままになっていた自分達の関係を変えねばならなかった。
環境そのものが変わるこの旅は好機だ。
嫌なことを後回しにするのは嫌いだったので、最初の宿に落ち着いたら、今日の内に行動に移そうとテオバルトは決めていた。
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