さいしょの贈りもの(7)
強いから、ヘルミーネは何にも動じないのだろうか。
彼女は何も感じていないかのように、未来のエルツェ公爵夫人たるべく母から家のことを淡々と教わり、社交に勤しんでいる。母は優秀な嫁を迎えたことに非常に満足しており、多少愛想がよくなくてもヘルミーネのことを可愛がっているようだった。
それは、エルツェ公爵家にとってはよいことだ。
だから放っておいてある節はある。というか、そこに自分がどう関われというのか。
王が言わんとすることをテオバルトは汲みとれなかった。そのせいでぶすっとしていたら、部屋の主はテオバルトを見放したらしい。
「寝所でのことを気にするより、まずはヘルミーネ殿のことを真剣に気にかけて差し上げよ」
「結局、彼女をよろこばせる手立てを授けてはいただけないのですか」
「初歩のなっていないそなたに教えることなどない」
帰れ、と冷たくあしらわれては、テオバルトは去るしかなかった。
そして、予定より少し遅れて帰宅した彼を出迎えたのは、やはり表情の乏しい新妻。気にかけてやれと言われても……。
「あー。ヘルミーネ」
ただいまのキスくらいしてみようか。そう思って妻の名を呼んだ。
馬車を降りた時にわずかにテオバルトを濡らした雨雫を気にかけて、彼女はちょっと背伸びをしてテオバルトの肩に出来たしみをぬぐってくれている。
少しかがめば容易に触れられるところに唇がある。けれども、ゆっくりと瞬きながら見つめ返してくるヘルミーネの瞳はやはり静かに過ぎて、そんなことなど求められていないような感じがした。
そのうち、テオバルトの帰宅に気づいた母が現れ、王妃様のご様子はいかがだったかと尋ねてきた。
「相変わらずお――」
お気楽、と言おうとしたところで、言葉を呑み込む。
「お元気そうでしたよ。陛下がたいへんよくしてくださっているようで」
その答えに満足する母の笑顔を見遣りつつ、テオバルトは唇を引き結んだ。
妹は王妃という立場にはまっても、輝くばかりの溌剌とした個性を殺されずに済んでいる。それは、どうすれば、あるいはどうさせてやれば自分の妃が一番能力を発揮できるか、王がとっくに見極めているからだ。
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