天槍アネクドート
さいしょの贈りもの(6)
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 こんなことを赤裸々に語って弱みを見せられる相手は兄のように慕ってきた王だけだ。
 ところが、テオバルトの主張を聞き終えた王の表情は思いのほか厳しかった。
「話にならん」
 それがテオバルトを責める言葉であることは嫌でも分かった。
「ならないでしょうか」
 理解してもらえなかったことに多少ムッとしたが、ここは堪えて戸惑ったふりをしておく。事実、なぜ王が先ほどにもまして不快そうにするのか分からない。
 王はテオバルトが中途半端に隠そうとした不満と疑問を当然見抜き、ますます眉間のしわを深くした。
「そなたはやはり公爵家の御曹司に過ぎぬようだな。人の世話になったことしかない者の考え方だ。あと五年経ってもその調子なら、お父上の跡を継がせるのも考えものだ」
「意地悪く罵るだけでなくご助言をください、陛下。二千歩くらい譲って私が悪いことは認めますが、はっきり言って何が悪いのか分かりません。だから困っているのです。このままでは本当に断層が」
 「断層?」と、テオバルトの言葉を繰り返しながら首を傾げた王だったが、よく掻き回したおかげで十分に冷めたお茶で口を湿らせてから、彼は再びテオバルトを糾弾した。
「あれほど新妻には気を遣ってやれと言ったのに、そなたは何もしていない。遠方から嫁いできたヘルミーネ殿の気持ちを思いやったことがあるのか」
「あります」
「そなたは今し方、妻が何を考えているかわからない≠ニ言った」
 自信満々に即答した直後、テオバルトはうっと息を呑んだ。誘導尋問だ、ずるい、と思ったが、こちらを睨む王の眼差しの真剣さにそうするしかなかった。
「そなたの婚礼に続き余とツェンの婚礼があったから忙しかったのであろうが……。ヘルミーネ殿はエルツェ公爵家の家名の重さをいやというほど理解してそなたの役に立とうと気負っていることだろう。ツェンのようにな」
「先ほど王妃様にお会いした時は、相変わらずお気楽そうでいらっしゃいましたが」
「必要ならばそのようにして見せるとも。そうせねばならないと分かっているし、そうするだけの強さも彼女らにはある」
 彼女ら≠ニ、ヘルミーネのことも含めて断言されたので、テオバルトはつい押し黙った。

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