天槍のユニカ



『娘』の真偽(12)

「だ、れ?」
 掠れた声で彼女は言う。そして大きく咳き込み、身体を折り曲げ呻きながら藻掻いた。
「痛むのか?」
 ユニカの背を優しくさすると、彼女は苦悶しながらもすがるような目で見つめてきた。
「大丈夫」
 怯える子供を宥めるつもりで声をかけ背をさすり続けていると、ようやく彼女の呼吸は落ち着きを取り戻す。
「この水を飲むといい」
 それを見計らって、ディルクは水を杯に注いだ。ティアナが用意した解熱と鎮痛作用がある薬を溶いた水だ。
 ティアナは上手にユニカの身体を抱え起こして水を飲ませていたが、ディルクにはその真似が出来なかった。人の介護の仕方など分からないし、寝返りを打とうとする度に苦悶するユニカに触るのは可哀想な気がする。抱え起こすなど到底無理だ。
 しかし、弱ったユニカも横になったままでは水など飲めないようで、ディルクが唇に押しつけた杯の縁から水を啜ってみるもののほとんどを零してしまう。
 同意は得られそうにないが、仕方あるまい。
 さっきから幾度もそうしているように、ディルクは自ら水を口に含んでユニカの唇へ運んだ。少しずつ、染み込ませるようにその奥へ水を流し込む。
 すると思いもかけず、彼女の唇がちゅっと吸いついてきた。
 一口目を与え終わり、身体を起こして彼女の様子を確かめてみる。ユニカは枕にすがりつきディルクを警戒しながらも、潤んだか弱げな目でこちらを見上げていた。
 蝋燭の火に照らされてもなお青白い肌。濡れた薄紅色の唇は薄く開いていて、何か言いたげだが、声を出すのは辛いらしい。
 これには驚いた。まだ水が欲しいということだろうが、こんな誘い方が出来るとは。
 思わず笑いがこみ上げてきた。出来れば熱に浮かされていない正気の時にこういう顔を見せて欲しいものだ。
 ディルクはもう一度口づけの理由を作るため、水を口に含んだ。ユニカの望みでもあるのだから咎められる謂われもあるまい。
 熱のせいだろう、重ね合わせたユニカの唇は熱い。長いまつげがゆっくりとディルクの目許を撫でる。彼女がまぶたを伏せたのを感じながら、ディルクはわずかに首を傾けて二口目の薬をユニカの唇の奥へ流し込む。
 そしてこぼれかけていた雫ごと温かいそれを舐めた。もう少し柔らかな感触を楽しもうと重ねたままの唇を押しつけるが、

- 51 -


[しおりをはさむ]